時効の援用(時効を利用する)

時効の援用とは

 時効の援用とは、法定された時効期間の経過により権利を取得したこと(取得時効)、または義務を免れたこと(消滅時効)を元の権利者や債権者などに主張する意思表示のことをいいます。 

 要するに、時効という特権を行使します!と相手に伝えることをいいます。 

 時効は、法定された時効期間が経過したからといって、直ちに時効の利益を享受することが出来るわけではありません
 
 時効の利益を享受する意思表示が必要になります。

 借金整理(債務整理)などの場面では、取得時効ではなく、消滅時効の援用が問題となります。債務者は、債権者や債権会社に対して、消滅時効を援用することで債務を免れることができるからです。 

 本稿では、消滅時効の援用について概要及び方法について紹介します。

時効援用の効果

⑴消滅時効の場合

 債務者などが消滅時効を援用することにより、債権者の債権は遡及的に(はじめに遡って)消滅することになります。
 そのため、消滅時効を援用した債務者は、以降債務の履行を免れることができ、対象の債権に関する利息(遅延利息など)の支払も免れることになります。

 2020年4月の民法改正により、不法行為に基づく損害賠償請求権など不法行為債権を除く一般債権(売買契約の売掛金債権や消費貸借契約の貸金債権など)の消滅時効期間は、主観的起算点から5年客観的起算点から10年とされました。
 
 主観的起算点とは、「債権者が権利を行使することができることを知った時」のこといい、客観的起算点とは、「権利行使に法律上の障害がなくなった時」のことをいいます。

 なお、主観的起算点の具体例として、債権の発生原因、債務者、弁済期を知った時が挙げられます。また、客観的起算点の具体例として、弁済期の到来が挙げられます。

⑵取得時効の場合

 債務整理の場面では、取得時効は直接問題になることはありませんが、取得時効の効果についても概要を触れておきます。
  
 たとえば、他人所有の土地の占有者が、占有開始時に自分の物であると信じ、そう信じたことについて無過失(善意かつ無過失)であれば、10年間の時効期間の経過により所有権を取得することができます(善意無過失でなければ時効期間は20年です)。
  
 消滅時効と同様に、占有開始時に遡って、初めから所有者であったことになります。
 取得時効の効果の特徴は、元の所有者から譲り受けたのではなく、最初から取得時効を援用した者の所有になるという点にあります。

 最初から所有者であったことになるので、元の所有者に対して対価などの支払をする必要はないことになります。

 なお、取得時効の対象となる権利は、一般的には所有権となりますが、所有権以外に地上権、永小作権、地役権、漁業権、無体財産権(特許権・著作権など)もあります。
 賃借権については争いがありますが、継続的な用益という外形的事実が存在し、それが賃借の意思に基づくことが客観的に表現されている場合には取得時効が実務上認められています(最判昭和43.10.8民集22巻2145頁)。

消滅時効の援用方法

⑴ 内容証明郵便を利用する

 時効の援用は、通常、内容証明郵便を利用して行われることになります。
 内容証明郵便を利用することにより、いつ、誰が、誰に対して、どのような内容の文書を送付したかがが特定されることになるからです。
 
 時効の援用に際しては、時効の起算点や時効完成日、時効を援用した日時が重要であるため、これらの日時を明確にすることが内容証明郵便を利用する趣旨となります。

⑵ 債権を特定する

 消滅時効を援用する場合には、①対象となる債権②その支払期限③支払期限から5年又は10年が経過したことを記載しなければなりません。

  たとえば、10年の時効期間を援用する場合ですと「平成21年1月1日、貴社から借りた100万円の支払時期は平成21年11月11日であるが、令和元年11月11日は経過したので、時効を援用する。」との記載が必要となります。

⑶ 弁護士に書き方を確認する

 消滅時効を援用する場合に、一度、自分で作成したうえで、弁護士に内容を確認してみるとよいでしょう。
 多くの法律事務所では、初回の法律相談を30分又は1時間無料で受けていますので、無料相談を利用して不備がないか確認しておくことをお勧めします。 

まとめ

 本稿では、債務整理の場面における消滅時効の援用について概要を説明しました。
 本稿でも紹介したように、消滅時効の援用には内容証明郵便を利用した上で、必要事項を漏れなく記載し、債権者に送ることが大切です。

参考文献

本稿は、以下の文献を参考に作成させて頂きました。有難うございました。
① 要件事実マニュアル第6版p305~309 著者:岡口基一
② コンメンタール民法第5版p281~287 著者:我妻榮、有泉亮、清水誠、田山輝明