国鉄事件 最高裁平成3年4月23日第三小法廷判決(団交を求める地位の確認)

事案の概要

(1) Yには、職員や家族などに対して無料で乗車することを認めるいわゆる鉄道乗車証制度が存在し、職員募集要領等で職員の待遇の一環としてその旨が明示されていました。

(2) 臨時行政調査会の答申により、同乗車証制度を是正すべき旨の提言がなされ、Yはこれを見直そうとしました。これに対し、X組合はその存続を求めて団体交渉を申し入れましたた。

(3) Yは、乗車証制度の改廃は、団交事項ではないことを理由に団体交渉の申入れを拒否し、同制度の改廃措置をとるに至りました。

(4) X組合は、乗車証制度が団交事項に該当するとして、団体交渉を行う義務があることの確認と、団交拒否の不法行為に基づく損害賠償請求を求める訴えを提起しました。

第一審

 第一審では、団体交渉を求める法律上の地位があることを確認しましたが、損害賠償については棄却しました。これに対し、Yが控訴し、X組合も附帯控訴しました。

控訴審

(1)  労働組合法7条の規定は、単に労働委員会における不当労働行為救済命令を発するための要件を定めたものであるにとどまらず、労働組合と使用者との間でも私法上の効力を有するもの、すなわち、労働組合が使用者に対して団体交渉を求める法律上の地位を有し、使用者はこれに応ずべき法律上の地位があることを意味するものと解すべきである。

(2)  X組合とYとの間で目録記載の事項が団体交渉の対象事項であるかどうかが争われており、この点が判決をもって確定されれば、その限りで当事者間の紛争が解決されることになるのであるから確認の利益が認められるものというべきである。

判旨及び判旨の概要 

Yの上告棄却

 X組合からYに対し…団体交渉を求め得る地位にあることの確認を求める本件訴えが、確認の利益を欠くものとはいえない

解説とポイント

 本判決は、憲法28条や労組法7条など関連条文を根拠に(法的根拠を示さなかったと判断する見解もあります)、私法上も労働組合が使用者に団体交渉を求める法律上の地位を有していると認められ、その確認を裁判所に求めることが出来ると判断しました。

 本判決以降も、多くの裁判例で団体交渉を認める地位確認請求及び保全処分が認められています(社会福祉法人敬人会事件:熊本地判令和2.3.18)。
 労働組合には、特定の事項について団体交渉を求める地位があることを裁判所が認めた点に本判決の意義があるといえそうです。

参考文献

 本稿の執筆に当たり、以下の書籍を参考にさせて頂きました。ありがとうございました。

・最重要判例200 労働法(第5版)大内伸哉 著
・労働判例百選(第10版)村中孝史・荒木尚志 編