紅屋商事事件 最高裁平成3年6月4日第三小法廷判決(継続する不当労働行為)

事案の概要

(1) X社は、総合衣料、食品、日用品等の小売を業とする株式会社であり、従業員は170名でした。X社にはその従業員を主体とするZ労働組合があり、組合員数は13名でした。

(2)昭和53年度賃上げに関し、X社及びZ組合は数度の団体交渉を経て昭和53年7月に協定書を作成し、その後、組合員の賃金が決定され、4月分に遡って賃上げが実施されました。
 昭和54年度には給与規定が改定され、これに基づいて賃金が支給されることなりましたが、前年度と同様に賃上げ交渉がなされ、同年7月15日に協定書が締結されて同年6月分から遡って支給されることになりました。

(3) Z組合は、昭和54年7月17日、昭和53年度の賃上げに関して組合員が差別を受けたとしてY地方労働委員会に不当労働行為救済の申立てを行いました(第一事件)。
 また、昭和55年7月22日には昭和54年度の賃上げについて、同年10月2日には昭和55年度の賃金改定問題について同趣旨の申立てを行いました(第二事件)。

(4)Y地労委は、第一事件と第二事件のいずれについても労組法7条1号及び3号の不当労働行為の成立を認め、格付けのやり直しと差額賃金の支払いを命じました。

(5) X社は、上記命令の取消を求めて提訴しました。

第一審:請求棄却、控訴審:控訴棄却

判旨・判旨の概要

一部棄却、一部却下

(1) 使用者が労働組合の組合員について組合員であることを理由として他の従業員より低く査定した場合、その賃金上の差別的取扱いの意図は賃金の支払いによって具体的に実現されるのであって、右査定とこれに基づく毎月の賃金の支払とは一体として1個の不当労働行為をなすものとみるべきである。

(2) 右査定とこれに基づく賃金が支払われている限り不当労働行為は継続することになるから…右査定に基づく賃金の最後の支払の時から1年以内になされたときは、右救済の申立ては労働組合法27条2項の定める期間内になされたものとして適法というべきである。

解説・ポイント

 本判決は、毎年行われていた賃金査定とこれに基づく毎月の賃金の支払いとは一体の行為であり、賃金査定において具体的な差別行為があり不当労働行為と認められる場合には、その賃金査定に続く賃金の支払いも一体として不当労働行為となり、当該査定に基づく賃金の支払いが続く限り、不当労働行為も継続すると判断しました。
 
 そのため、最後の賃金支払いから1年以内に行われた救済の申立ては、労組法27条2項の定める期間内に行われたものであり適法であると判断しました。

参考文献

 本稿の執筆に当たり、以下の書籍を参考にさせて頂きました。ありがとうございました。

・最重要判例200 労働法(第5版)大内伸哉 著
・労働判例百選(第10版)村中孝史・荒木尚志 編