事案の概要
(1) X社はA社を吸収合併し、A社にはB組合C支部が存在していましたが、合併への対応をめぐり大多数の組合員が元からX社に存在していたD組合へと移り、合併後のX社には少数組合であるCと多数組合たるDが併存していました。
(2) X社はDとのみ協議し、D組合員のみに交代制勤務・計画残業及び月1程度の休日勤務をさせていましたが、C組合員に対しては昼間勤務のみの勤務に組み入れ残業を一切命じないとの措置をとるようになりました。
(3) Cは、C組合員にも残業させるようX社に申し入れ、数回の団体交渉を経るも事態が進展しなかったので東京都労働委員会(以下、「都労委」)に斡旋を申請しましたが、交渉はもの別れに終わってしまいました。
(4) Cは、X社がC組合員に対し残業を命じないことはD組合員と差別しC組合員に経済的不利益を与えようとする不当労働行為であるとして都労委に対して救済申し立てをしたところ、都労委は、支配介入の不当労働行為を認めて救済命令を発しました。
(5) そこでX社は命令の取消を求めて提訴することになりました。
第一審:請求認容、控訴審:控訴認容
判旨・判旨の概要
上告棄却
(1) 労組法上同一企業内に複数の労働組合が併存する場合には、各組合は、その組織人員の多少にかかわらず、それぞれ全く独自に使用者との間に労働条件等について団体交渉を行い、その自由な意思決定に基づき労働協約を締結し、あるいはその締結を拒否する権利を有するので…一般的、抽象的に論ずる限り不当労働行為の問題は生じない。
(2) 複数組合併存下では各組合は…固有の団体交渉権及び労働協約締結権を保障されているものであるから…使用者はいずれの組合との関係においても誠実に団体交渉を行うべきことが義務付けられ…すべての場面で使用者は各組合に対し、中立的態度を保持し、その団結権を平等に承認、尊重すべきものであり、各組合の性格、傾向や従来の運動路線のいかんによって差別的な取り扱いをすることは許されない。
(3) もっとも…多数派組合の交渉力のほうが使用者の意思決定に大きな影響力をもたらすことは否定できず、多数派組合との交渉及びその結果に重点を置くようになるのは自然のことであり…中立義務が課せられているとしても、各組合の組織力、交渉力に応じた合理的、合目的的な対応をすることが右義務に反するものとみなされるべきではない。
(4) 団結権の否認ないし同組合に対する嫌悪の意図が決定的動機となって行われた行為があり、当該団交が…形式的に行われているものと認められる特段の事情がある場合…労組法7条3号の不当労働行為が成立する。
(5) 本件におけるX社の行為は不当労働行為に当たる。
解説・ポイント
本判決では、併存する複数の労働組合に対して、使用者が多数労働組合から同意を取り付けるため、同組合から優先的に団体交渉を行うことは、中立保持義務違反には当たらないと判断しました。
その一方で、特定の労働組合に対して、組合弱体化や嫌悪の意図の動機をもって団体交渉を行うことは、同組合への差別的取扱いに当たり、不利益取扱い(労組法7条1号)及び支配介入(労組法7条3号)の不当労働行為に重畳的に該当すると判断しました。
参考文献
本稿の執筆に当たり、以下の書籍を参考にさせて頂きました。ありがとうございました。
・最重要判例200 労働法(第5版)大内伸哉 著
・労働判例百選(第10版)村中孝史・荒木尚志 編