プリマハム事件 東京高裁昭和56年9月28日判決(使用者の言論)

事案の概要

(1) X社は、食肉加工の製造販売等を目的とする会社であり、従業員は約5600名でした。
 Zは、X社の従業員で組織する労働組合であり、その組合員数は約1000名でした。

(2) 春闘において、ZはX社に対し賃金引上げに関する要求を行い、X社との間で団体交渉が重ねられましたが、交渉は不調に終わりました。
 しかし、その後もZは団体交渉を継続する意思があることを表明していました。

(3) 上記経緯の中、X社は社長名で声明文(以下、「本件声明文」)を全事業所に掲載しました。
 本件声明文は、「従業員の皆さん」を名宛人とするものであり、「組合幹部の皆さんは…ストのためにストを行わんとする姿にしか写ってこない…重大な決意をせざるを得ません。」などの記載がありました。
 この後、Z組合員内にストライキに参加せずに妥結を求めるグループが発足し、その後実施したストライキにおいて相当数の脱落者が出ました

(4) Zは、東京地労委Yに対し救済を求めたところ、本件声明文掲示を支配介入と認定しました
 これに対し、X社は、Yの救済命令の取消を求めて提訴した。 

第一審:請求棄却

判旨・判旨の概要

控訴棄却

(1)組合に対する使用者の言論が不当労働行為に該当するかどうかは、言論の内容、発表の手段、方法、発表の時期、発表者の地位、身分、言論発表の与える影響などを総合して判断し、当該言論が組合員に対し威嚇的効果を与え、組合の組織、運営に現実に影響を及ぼした場合はもちろん、一般的に影響を及ぼす可能性のある場合は支配介入となるというべきである。

(2) 本件声明文は、その対象者を「従業員の皆さん」としているが…組合員全員を対象にしているとみるほかない。

(3)本件声明文の内容について、「組合幹部の皆さん」という文言は、組合執行部の態度を批判することにより、執行部と一般組合員との間の離反をはかる恐れがあるとみられなくはない。
 また、「ストのためのスト」という文言は…(事実と異なり)、いたずらに闘争一点張りに走る態度があると(読むことができる)。
 さらに、「重大な決意」との文言は、一般的に言って組合員に対する威嚇的な効果を持つ。
 加えて、「節度ある行動をとるように」との文言は…組合員に対するストライキの不参加の呼びかけといえる。

(4) 本件声明文は…全事業所に一斉に掲示して発表された。

(5) 本件声明文の発表の時期は…なお団体交渉によって話し合いを継続する余地のある段階であった。

(6) 本件声明文は、X社の最高責任者としての社長名義で発表されている。

(7) 本件声明文の影響として、発表後、ストライキに反対するZ内部での動きが各支部において急に現れてきた。

(8) 以上を総合して考えると、本件声明文は…組合の内部運営に対する支配介入行為にあたると認めるのが相当である。

解説・ポイント

 本判決の意義は、使用者の発言がどのような場合に不法労働行為たる支配介入(労組法7条3号)に当たるかについて、言論の内容、発表の手段、方法、発表の時期、発表者の地位、身分、言論発表の与える影響などを総合して判断する、との規範を示し、使用者の発言による組合活動への影響が現実に発生するものでなくても、一般的に発生する可能性がある場合には支配介入にあたると判断した点にあると考えられます。

参考文献

 本稿の執筆に当たり、以下の書籍を参考にさせて頂きました。ありがとうございました。

・最重要判例200 労働法(第5版)大内伸哉 著
・労働判例百選(第10版)村中孝史・荒木尚志 編