事案の概要
(1) 日本国有鉄道改革法(以下「改革法」)は、国鉄の旅客鉄道事業・貨物運送事業を分割してJR北海道・JR貨物(以下「JR北海道ら」)ほかの6つの会社に事業を引き継がせ、その後、国鉄を清算事業団に移行させた上で、承継法人に採用されなかった職員の再就職の促進を図るための業務などを行わせることとしました。
(2) 国鉄は、承継法人の設立委員が提示した採用基準及び労働条件に従い国鉄職員に対して意思確認を行い、その結果に基づき、承継法人ごとに採用候補者を選定してその名簿を作成しました。
(3) (承継法人の)設立委員会は、採用候補者名簿に記載された者全員を承継法人の職員に採用することを決定しましたが、国鉄労働組合員(以下「国労」)に所属する、少なからざる組合員は採用されませんでした。
その後、職員の追加採用を行いましたが、国労に所属する組合員で採用された者は少数にとどまりました。
(4) 国労は、所属組合員が採用されなかったのは不当労働行為に当たるとして北海道地労委に救済申し立てを行い、救済命令が発せられました。
JR北海道らは、中央労働委員会(以下「中労委」)に再審査を求めましたが、中労委も救済命令を発しました。
(5) これに対して、JR北海道らは中労委の救済命令の取消を求めて提訴しました。
第一審:請求認容、控訴審:控訴棄却
判旨・判旨の概要
上告棄却
(1) 改革法は…専ら国鉄が採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成に当たり組合差別をしたという場合には、労働組合法7条の適用上、専ら国鉄、次いで事業団にその責任を負わせることとしたものと解さざるを得ない。
(2) 労働組合法7条1号本文は、「労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもって、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取り扱いをすること」又は「労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること」を不当労働行為として禁止するが、雇入れにおける差別的取扱いが前者の類型に含まれる旨を明示的に規定しておらず、雇入れの段階と雇入れ後の段階とに区別を設けたものと解される。
(3) 雇入れの拒否は、それが従前の雇用契約関係における不利益な取扱いに他ならないとして不当労働行為の成立を肯定することができる場合に当たるなどの特段の事情がない限り、労働組合法7条1号本文にいう不利益な取扱いに当たらないと解するのが相当である。
(4) 本件では、採用の拒否について上記特段の事情があったとは認められない。
解説・ポイント
本判例の意義は、使用者に採用の自由について広い裁量を認め、労組法7条1号は雇入れ段階での黄犬契約(労働者が労働組合に加入しないことや労働組合から離脱することを条件に結ぶ雇用契約のことをいいます)のみを禁止しており、雇入れ段階での不利益取扱いを禁止していないと判断した点にあります。
なお、本判例は、使用者の採用の自由について争われた三菱樹脂事件(最大判昭和48・12・12民集27巻11号)の「企業者が雇傭の自由を有し、思想、信条を理由として雇入れを拒んでもこれをもって違法とすることができない以上、企業者が、労働者の採否決定にあたり、労働者の思想、信条を調査し、そのためその者からこれに関連する事項についての申告を求めることも、これを法律上禁止された違法行為とすべき理由はない」との判断に沿ったものと考えられます。
参考文献
本稿の執筆に当たり、以下の書籍を参考にさせて頂きました。ありがとうございました。
・最重要判例200 労働法(第5版)大内伸哉 著
・労働判例百選(第10版)村中孝史・荒木尚志 編