丸島水門事件 最高裁昭和50年4月25日第三小法廷判決(ロックアウト)

事案の概要

(1)A組合は、Y社が賃上げ要求を拒否したため、Y社に対し闘争宣言を通告しました。
 A組合の争議行為の結果、Y社は正常な作業が不能に陥り職場の秩序は極度に混乱しました。

(2)Y社は、A組合に対してロックアウトを通告し、A組合の組合員であるXらの就労を拒否し、ロックアウト期間中の賃金を支払いませんでした

(3) Xらは、Y社に対し、ロックアウト期間中の賃金の支払いを請求しました。

第一審:請求認容、控訴審:控訴認容

判旨・判旨の概要

上告棄却

(1) 争議権を認めた法の趣旨が…労使対等の促進と確保の必要に出たものであるから…力関係において優位に立つ使用者に対して、一般的に労働者に対する(の)と同様な意味において争議権を認めるべき理由はない

(2) もっとも、労働者側の争議行為によりかえって労使間の勢力の均衡が破れ、使用者側が著しく不利な圧力を受けることになるような場合には、衡平の原則に照らし、使用者側においてこのような圧力を阻止し、労使間の勢力の均衡を回復するための対抗防衛手段としての相当性を認められる限りにおいては、使用者の争議行為も正当なものとして是認されると解すべきである。

(3)労務の受領拒否をすることができるかどうかは、個々の具体的な労働争議における労使間の交渉態度、経過、組合側の争議行為の態様、それによって使用者側の受ける打撃の程度等に関する具体的諸事情に照らし、衡平の見地から見て労働者側の争議行為に対する対抗防衛手段として相当と認められるかどうかによってこれを決すべきである。

(4) 本件ロックアウトは、衡平の見地から見て、労働者側の争議行為に対する対抗防衛手段として相当と認めることができる。

解説・ポイント

 本判決の意義は、原則として、使用者に争議行為を認めることは出来ないものの、労働組合による争議行為により労使間の勢力の均衡が破れるほど使用者の受ける打撃が大きいといえる場合には、労使間の交渉態度や経緯、使用者の受ける打撃の程度などを考慮して、例外的に、防衛手段としてロックアウト(労働者の労務の提供を拒むことをいいます)を行うことは相当であると判断した点にあります。

 要するに、ロックアウトは使用者の救済策という位置づけになるといえるでしょう。
 実際、労働組合の争議行為により労使間の力関係が大きく崩れているような状況下で、労務の提供を受けて賃金を支払っても、賃金に見合う成果を得られる可能性は少なく、企業の経済的損失が大きくなり、企業自体の経営基盤にも大きな影響を与えることが懸念されます。

 令和になった日本では、争議行為自体ほとんど見かけなくっているので、ロックアウトを行う機会は今後見ることはなくなるかも知れません。

参考文献

 本稿の執筆に当たり、以下の書籍を参考にさせて頂きました。ありがとうございました。

・最重要判例200 労働法(第5版)大内伸哉 著
・労働判例百選(第10版)村中孝史・荒木尚志 編
・詳解 労働法 水町勇一郎 著