弘南バス事件 最高裁昭和43年12月24日第三小法廷判決(平和義務違反の争議行為)

事案の概要

(1) Xら両名は、Y社の弘前営業所に車掌として勤務し、同社従業員で組織する訴外労働組合車掌支部の支部長と副支部長の地位にありました。

(2) Y社と労働組合の間で締結した労働協約の規定において「…労使間は問題を常に平和的に解決する」とされていました。

(3) 労働組合は、春闘の際に、指名ストを開始しましたが、Y社は、Xらが会社の許可なく再三の警告を無視して、営業所車掌控室内に組合文書等を掲示し、会社による除去後も繰り返し掲示する等しました。また、Xらは、無許可で職場集会を強行し、会社の再三の警告を無視して労働歌を高唱する等しました。

(4) Y社は、就業規則所定の懲戒事由に該当する悪質重大な行為であるとして、Xらを懲戒解雇しました

(5) Xらは、懲戒解雇の無効を主張して従業員たる地位を確認する訴訟を提起しました。

第一審:請求認容、控訴審:控訴棄却

判旨・判旨の要約

上告棄却

(1) 懲戒解雇は、普通解雇と異なり、譴責、減給、降職、出勤停止等とともに企業秩序の違反に対し、使用者によって課せられる一種の制裁罰であると解すべきである。

(2) 平和義務に違反する争議行為は、その平和義務(労働協約の有効期間中は同協約で定められた事項について協議等の一定の手続を踏まなければ争議行為を行わないという定めのことをいいます)が労働協約に内在するいわゆる相対的平和義務である場合においてもこれに違反する争議行為は…労働契約上の債務不履行にすぎないものと解するのが相当であるので、使用者は、労働者が平和義務に違反する争議行為をし、またはこれに参加したことをのみを理由として、当該労働者を懲戒処分に付しえない

解説・ポイント

 本判決は、労働協約に内在する、一定の事項については所定の手続きを経ずに争議行為を行わないという相対的平和義務に違反して争議行為を行ったとしても、債務不履行の問題が生じるに過ぎず、労働協約の債務不履行を理由に直ちに制裁罰となる懲戒処分を行うことは出来ないと判断しました。

 要するに、平和義務違反という債務不履行の理由だけで懲戒処分を行うことはできないと判断した点に本判決の意義があります。本判決としては、債務不履行による損害賠償請求などは認められても、制裁罰である懲戒処分を行うのは懲戒事由として足りないと判断したものと考えられます。

参考文献

 本稿の執筆に当たり、以下の書籍を参考にさせて頂きました。ありがとうございました。

・最重要判例200 労働法(第5版)大内伸哉 著
・労働判例百選(第10版)村中孝史・荒木尚志 編
・詳解 労働法 水町勇一郎 著