御國ハイヤー事件 最高裁平成4年10月2日第二小法廷判決(違法な争議行為)

事案の概要

(1) Xは、従業員約115名を雇用し常時42台のタクシーを稼働させていた高知市のタクシー会社でした。Yらは、タクシー運転手の労働組合である全自交高知地本の組合員であり、同地本又は同地本みくに分会の役員を務めていた者たちでした。
 同地本は、昭和57年の春闘において、Xに対し基本給の引上げ、臨時給の支給、臨時従業員の正社員化などを要求し、団体交渉を重ねましたが、交渉は決裂してしまいました。

(2) 同地本は、昭和57年7月9日の始業時から48時間のストライキを実施しました。その際、Yらは、組合員が乗務するタクシーをXが稼働させるのを阻止するため、本件タクシーを格納する車庫において、組合員と共に本件タクシーの傍らに座り込んだり寝転んだりして同車庫を占拠しました。

(3) Xは、タクシーを搬出させて欲しい旨を文書と共に口頭で申し入れましたが、組合員らはこれに応じませんでした。スト終了後、Xは、違法に営業を妨害されたとして、Xらに対し不法行為による損害の賠償を求めて提訴しました。

第一審:請求一部認容、控訴審:控訴認容

判旨・判旨の要約

破棄差戻し

(1) ストライキ…の本質は、労働者が労働契約上負担する労務供給義務の不履行にあり、その手段方法は労働者が団結してその持つ労働力を使用者に利用させないことにあるのであって、不法に使用者側の自由意思を抑圧しあるいはその財産に対する支配を阻止するような行為をすることは許されず…正当な争議行為と解することはできない

(2) 労働者側が、ストライキの期間中、非組合員等による営業用自動車の運行を阻止するために、説得活動の範囲を超えて、当該自動車等を労働者側の排他的占有下に置いてしまうなどの行為をすることは許されず…正当な争議行為とすることはできない

(3)本件についてみるに、Xの管理下にある本件タクシー…を搬出して稼働させるのを実力で阻止した…行為は…争議行為として正当な範囲にとどまるものということはできない。

解説・ポイント

 本判決の意義は、争議行為(ストライキ)の本質は、労働者の労務提供義務の不履行にあることから、説得活動の範囲を超えて、使用者の財産を排他的に占有することは違法な争議行為にあたり、認められないと判断した点にあります。
 
 本件争議行為は、使用者の営業用自動車を非組合員らに使わせないようにしていることから、労働者が使用者の経営支配を排除し、事業所全体やその生産設備等占有して経営を行う生産管理とは異なり、(スト破り防止の目的があったかは不明ですが)ピケッティングにあたるものと考えられます。
 
 議論はありますが、ピケッティング自体が違法な争議行為になるのではなく、その主体や目的、手続、行為態様などから個別具体的に争議行為の適法性が判断されることになる点に注意が必要です。

参考文献

 本稿の執筆に当たり、以下の書籍を参考にさせて頂きました。ありがとうございました。

・最重要判例200 労働法(第5版)大内伸哉 著
・労働判例百選(第10版)村中孝史・荒木尚志 編
・詳解 労働法 水町勇一郎 著