はじめに
就業規則の内容は、法令や労働協約の内容に反しない限り、使用者が一方的に定めることが出来ます。
しかし、使用者が無制限に制裁の内容についてまで定めることができると、たとえば多額の減給により労働者の経済的生活の安定が損なわれるおそれが出てきます。
そこで、本稿では、減給による制裁について紹介致します。
減給の制裁
制裁の限界
就業規則で、労働者に対して減給の制裁をする場合には、その減給は、次の額を超えて課すことはできません。
1.1回の額について、平均賃金の1日分の半額
2.総額について、一賃金支払期における賃金の総額の10分の1
この就業規則は、就業規則一般を指し、労基法89条に基づくものに限らないため、常時労働者の数が10人未満の就業規則の作成義務を負わない使用者にも上記「減給の制裁」の規定が適用されることになります。
なお、「一賃金支払期の賃金の総額」とは、現実に支払われる賃金の総額のことをいいます。
そのため、欠勤控除などがあった場合には、その控除額の10分の1が減給の制裁の限界となります。
たとえば、平均賃金が20万円で欠勤控除が2万円の場合、残額18万円を基準に算定し、18万円の10分の1である18,000円が減給の制裁の限界となります。
1日に2回の違反行為があった場合
1日に2回の違反行為があった場合、それぞれ1回当たりの違反に対する減給制裁が平均賃金の1日分の半額以内であれば、減給額の総額が平均賃金の1日分の半額を超えてもよいとされています。
減給の総額が多額になった場合
たとえ1回の減給額が平均賃金の1日の半額以内であったとしても、何度も違反行為があったことにより一賃金支払期における減給の総額が多額となることがあります。
ですが、一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超える減給を行うことはできません。
減給の制裁が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超える場合には、超える部分の減給額を次期以降の賃金支払期に繰り越すことによって、制裁を課すことになります。
減給の制裁に関する通達
減給の制裁に当たるとされた事例
1.職務に変更がない賃金のみ減ずる趣旨の降給処分
2.遅刻、早退について、遅刻、早退した時間分を超える減給
減給の制裁に当たらないとされた事例
1.出勤停止によりその間の賃金を受けられないこと
2.懲戒処分による昇給停止
3.遅刻、早退した時間分に相当する賃金の控除
まとめ
本稿では、減給により制裁について紹介致しました。
要するに、労働者の経済的生活の安定を確保する趣旨より、就業規則によっても、減給の制裁には一定の限界があるということです。
なお、減給の制裁も懲戒処分に当たりますが、使用者が労働者を懲戒するためには、予め就業規則に懲戒の種別と懲戒事由が定められていなければなりません。