東海旅客鉄道事件 大阪地裁平成11年10月4日判決(病気休職と期間満了退職)

事案の概要

(1)Y社は、国鉄民営化に伴い発足した旅客鉄道輸送等を業とする株式会社でした。
 Xは、国鉄に採用され、Y社の発足に伴い、Y社の職員となりました。Xは、採用に際して職種の限定はされていなませんでした。

(2)Xは、平成6年6月15日、脳内出血を発症し、その後欠勤しすることになりました。
 欠勤日数が180日を超えることになったため、Y社は、判定委員会の判定に基づき、同年12月13日付で6か月の病気休職を発令しました。
 その後、休職期間満了が近付くごとに、Xから診断書が提出され、休職期間が更新されました。
 最終的に、病気休職期間は平成9年12月12日までとされました。

(3)平成9年8月6日、Xは職場で所長らと面会し復職の意思表示を示しました。
 また、Xから提出された同年10月21日付診断書には軽作業なら行えること、安静度について特別な規制はないこと等が記載されていました。
 しかし、Y社は、判定委員会の判定結果を踏まえ、同年11月27日、休職期間が3年を超え、なお復職できないと判断し、同年12月13日をもってXを退職扱いとしました。

(4)Xは、従業員としての地位確認及び賃金支払いを求めて訴えを提起しました。

判旨・判旨の要約

請求認容

(1)Xは、その採用に際して職種を限定されてはいなかったこと、少なくとも平成9年8月6日には復職の意思を示していたことについては当事者間に争いはない。
 労働者が私傷病により休職となった以後に復職の意思表示をした場合、使用者はその復職の可否を判断することになるが、労働者が職種や業務内容を限定せずに雇用契約を締結している場合においては、休職前の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、使用者の規模や業種、その社員の配置や異動の実績、難易等を考慮して、配置換え等により現実に配置可能な業務の有無を検討し、これがある場合には当該労働者に右配置可能な業務を指示すべきである。

(2)Y社内での職務内容の変更状況やXの身体の状況等を考慮した場合、Xが就労可能であったと主張する各業務のうち、少なくとも工具室での業務は就業可能であり、Xを交検業務から右工具室での業務に配置換えすることも可能であったとするのが相当である。
 Xが行うことのできない作業があるとしても、雇用契約における信義則からすれば、使用者はその企業の規模や社員の配置、異動の可能性、職務分担、変更の可能性から能力に応じた職務を分担させる工夫をすべきであり、Y社の企業規模から見てY社がこのような対応を取り得ない事情は窺えない。

解説・ポイント

 休職とは、労働者に就労させることが適切でない場合に労働契約を存続させつつ労働義務を一時消滅させることをいいます。
 
 傷病休職や事故欠勤休職の場合、休職期間満了の時点で休職事由が消滅していないときには解雇がなされ、または労働契約の自動終了という効果が発生するものとされることがあります。
 
 では、どれくらいの病状が回復していれば「治癒」したと判断され、労働契約の終了という効果が発生しないことになるのでしょうか。

 本件のように、裁判例によれば、休職期間満了時に従前の職務を支障なく行える状態にまでは回復していなくとも、①相当期間内に治癒することが見込まれ、かつ②当人に適切なより軽い作業が現に存在するときには、使用者は労働者を病気が治癒するまでの間その業務に配置する信義則上の義務を負い、労働契約の終了の効果は発生しないと解釈されています。

 本判決の意義は、職種が限定されていない雇用契約において、労働者が休職後に復職を希望した場合には、たとえその休職期間が打切補償を支給して雇用契約を終了させることができる期間であったとしても、使用者は信義則上就労可能な職種に配置する義務があると判断した点にあります。

参考文献

 本稿の執筆に当たり、以下の書籍を参考にさせて頂きました。ありがとうございました。

・最重要判例200 労働法(第5版)大内伸哉 著
・労働判例百選(第10版)村中孝史・荒木尚志 編
・詳解 労働法 水町勇一郎 著