督促状が届いたら

結論

 まずは、時効の援用ができるかを確認しましょう
 
 何よりもここの確認が重要です。
 
 督促状とは、要は請求書のことですが、一般的には、繰り返し請求しても弁済など債務の履行がない場合など履行を催促するために利用されています。

 督促状には、「催告」と呼ばれる時効の停止(民法改正後は「時効の完成猶予」といいます)の効力がありますが、催告は1度しか使えず、催告による時効停止の期間は6か月間と限定的で繰り返し催告を行うことはできません(行っても2度目以降の催告に時効の停止の効力は認められません)。

 催告後、6か月以内に裁判上の請求を行わない限り、時効は完全には停止しないのです。
 そのため、債権者が支払期限経過後に督促状(請求書)を送っている場合、すでに時効が完成している可能性があるのです。

 督促状が届いたからといって、時効の進行はストップ又はリセットされた等と早とちりしないようにしましょう。 

債務整理の相談は多い

 督促状が届いても、資力があり、支払いが十分に可能ならそれに応じてもよいでしょう。借りたものは返す。当たり前と言えば当たり前です。
 ただ、本稿は、多重債務に苦しんでいる方など、主に債務整理を真剣に検討している方を対象に解説していますので、その辺を踏まえて以下ご一読いただければと思います。
  
 法律事務所に来る相談のうち、債務整理(要は借金問題)の相談は、すべての相談の中でも体感TOP5に入るほど相談の多い分野だなぁと感じています。
 
 ちなみに他4つは、現在では(令和4年12月現在)交通事故相続問題離婚問題労働問題のご相談が多い印象です。
 超高齢化社会やコロナ禍の影響かもしれませんが、私の勤めている法律事務所では、これらの相談がとりわけ多い印象です。

 本稿では、債務整理にフォーカスして紹介致します。

時効って何?

 そもそも時効はご存知でしょうか?
 おそらく「時効」という言葉は、皆さん誰もが一度は聞いたことがあるはずです。

 一応確認しておくと、「時効」とは、本来の権利関係と異なる事実状態が一定期間継続した場合に、その継続した事実状態を権利関係と認め、権利を取得させる(取得時効)あるいは消滅させる(消滅時効)ことをいいます。 

 要するに、時効とは、長期間が過ぎた場合に本来持っていなかった権利を手に入れることができたり、本来持っていた権利が無くなったりする制度のことをいいます。

 借金整理の場面で問題になるのは、債権を消滅させる消滅時効の方となります。
 借金問題で「時効を援用する」とは、この消滅時効を使って借金をチャラにしてしまうことをいいます。

消滅時効を援用するために 

時効制度の改正

 近年、改正民法の施行により、時効の起算点について「主観的起算点」と「客観的起算点」が導入されました(民法166条1項1号・2号)が、時効の援用が可能な債務は民法改正前の債務でしょうから、今のところ、これらの主観的起算点や客観的起算点は気にする必要がないかと思います。

 一応、気になる人のためにザックリ説明しておくと、時効の起算点とは、時効の進行が開始する時点のことをいいます。
 
 主観的起算点とは、「債権者が権利を行使することができることを知った時」を時効開始の時点とすることです。具体的には、債権の発生原因、債務者、弁済期を知った時が主観的起算点となります。
 
 客観的起算点とは、「権利行使に法律上の障害がなくなった時」を時効開始の時点とすることです。具体的には、弁済期の到来が客観的起算点となります。

 主観的起算点の導入により、貸金債権などの一般的な債権は、消滅時効期間が短くなる傾向になります。そのため、主観的起算点の導入により債権者にとっては不利に、債務者にとっては有利になったといえそうです。

消滅時効期間

 借金問題で消滅時効の対象となる貸金債権の消滅時効期間は、民法改正後では主観的起算点から5年客観的起算点から10年とされています。

 ちなみに、借金問題とは直接関係はありませんが、人の生命・身体の侵害に対する損害賠償請求権の消滅時効期間は、主観的起算点(損害及び加害者を知った時点)から5年、客観的起算点(権利を行使することができる時点)から20年とされています(民法724条の2、167条)。

 現在借金問題で消滅時効の援用の対象となっている債務には、改正前の民法が適用されるハズですが、民法改正前の債権の消滅時効期間は権利を行使することが出来る時から10年とされていました。

 借金問題において「権利を行使することが出来る時」とは、借金の支払期限のことです。
 督促状が届いたら借金の支払期限から10年経過しているかを確認してみて下さい

 支払期限から10年が経過していたら、時効が中断(民法改正後は「時効の更新」といいます)等されていない限り、消滅時効を援用することができることになります。

時効の更新に要注意

 時効の中断(民法改正後は「時効の更新」といいます)とは、要するに、時効の進行がリセットされ、再びゼロから時効がスタートすることをいいます。
 消滅時効の期間中に、支払期限の猶予を申し入れたり、債務の一部を弁済したりすると時効が中断することになります。

 督促状が届くと、焦って債権者に支払いを猶予してもらったりしたくなる気持ちは分かりますが、たとえ債権者に債務額を確認するためであっても、時効中断(民法改正後は「時効の更新」といいます)の恐れがある以上、下手に債権者に連絡するようなことは厳に慎むべきでしょう
 債務整理のチャンスをふいにしてしまいかねません。

 仮に、消滅時効の期間が経過していたことを知らずに時効の中断(改正後は時効の更新)をしても、実務上、債権者の債務の履行への期待を裏切ってはいけないという信義則から、消滅時効の援用は認められていません。

 ただし、債権者からだまし討ちのような形で詐術的な手法で時効の中断を行ってしまった場合には、時効の中断を否定した裁判例もありますので(東京地判平成7・7・26金判1011号38頁参照)、そのような場合には、消滅時効の援用ができることがあります

 この辺になると、詐術的な行為があったかなどの事実の認定については、専門的な問題となるので、弁護士に相談してみると良いかもしれません。弁護士の相談料はバカにならないので(通常30分5,500円)、必ず初回無料法律相談を実施している法律事務所に相談してみましょう

まとめ

消滅時効を援用する

 債務整理で気を付けたいのは、せっかく時効が完成しているにもかかわらず、自ら債務を承認してしまって時効を中断(改正後は時効の更新といいます)させてしまうことです。
 
 債権者からすると「消滅時効を援用するなんてとんでもない」と怒るでしょうが、長期間権利の行使をおさぼりした債権者は保護に値しないとして作られた時効制度の建前上仕方がありません。
 債権者は、常に債権の時効管理(とりわけ支払期限の過ぎた延滞債権の時効期間)に注意を払う必要があるということです。

 本稿では、督促状が届いた場合、債務者が取るべき対応の1つを紹介してきましたが、最初にも述べたように対象としているのは、主に多重債務などに苦しんでいる債務者の方たちです。
 資力に余裕があって、ただ支払いを忘れていただけ、という方は、是非とも債権者に弁済してください(遅延利息も請求されるかもしれませんが)。

1日も早く平穏な生活を取り戻す

 多重債務に苦しんでいる方たちは、どうすればよいか冷静に考えられず、毎日を不安な気持ちで過ごしている方は少なくありません。
 
 異論もあるでしょうが、負債が重くのしかかって、日常生活すらままならいのなら、少しでも債務を減らし、そして一日でも早く再起を図るためにも、もはや支払う必要のなくなったものは払う必要はないとある意味開き直ることも一つの考えだと思います。

 長い時効期間が経過した債務(借金)は、消滅時効を援用して、債務をなくしてしまえないか確認することが債務整理のスタートです。
 債務整理の方法には、任意整理や個人再生、自己破産などもありますが、これらの方法は消滅時効の活用を検討した後の話しであることを忘れないようにしましょう。