全日本空輸事件 東京地裁平成11年2月15日判決(起訴休職) 

事案の概要

(1)Y航空会社に入社し、機長資格操縦士であったXは、客室乗務員Aと男女の関係になっていました。

(2)AがYを退職後、XはAに対して傷害を負わせたとの被疑事実により逮捕され、公訴提起されましたが、その後略式命令を受けて釈放されました。Xは、略式命令に対して裁判を請求し無罪判決を受けました。

(3)Yは、Xが略式命令を受けた直後、Xに対して乗務停止の措置をとり、その後、Xが刑事訴追を受けたことを理由にY就業規則に従い、Xを無給の休職に付しました。
 なお、本件刑事事件の無罪判決後、Xは休職処分を解かれて復職していました。

(4)Xは、Yに対して休職処分が無効であること、及び減額された賃金等の支払を求めて訴訟を提起しました。

判旨・判決の要約 

一部認容、一部棄却(確定)

(1)起訴休職制度の趣旨は、刑事事件で起訴された従業員をそのまま就業させると、職務内容又は公訴事実の内容によっては、職場秩序が乱されたり、企業の社会的信用が害され、また、当該従業員の労務の継続的な給付や企業活動の円滑な遂行に障害が生ずることを避けることにある。
 したがって、従業員が起訴された事実のみで形式的に起訴休職の規定の適用が認められるものではなく、職務の性質、公訴事実の内容、身柄拘束の有無などを諸般の事情に照らし、起訴された従業員が引き続き就労することにより、Yの対外的信用が失墜し、又は職場秩序の維持に障害が生ずるおそれがある・・・場合でなければならず、また、休職によって被る従業員の不利益の程度が・・・懲戒処分の内容と比較して明らかに均衡を欠く場合でないことを要するというべきである。

(2)本件休職処分の時点では、Xが逮捕されて略式命令を受けた日から約1か月を経過していることからして・・・安全運行に影響を与える可能性を認めるに足りる証拠はない。
 したがって、Xの労務の継続的な給付や企業活動の円滑な遂行に障害が生ずるおそれがあるものとは認められない。
 本件休職処分は・・・無効というべきものであり、Xは・・・民法536条2項により賃金請求権を失わない。

解説・ポイント

 本判決の意義は、起訴休職処分が適法といえるためには、職務の性質、公訴事実の内容、身柄拘束の有無などを諸般の事情に照らし、使用者の社会的信用職場の秩序が害される場合でなければならず、また、懲戒処分の内容が休職処分を受ける労働者の不利益の程度と比較して均衡を欠くものであってはならないと判断した点にあります。


 本件のように、企業外での男女関係のもつれから生じた私的行為が起訴につながった事例は、不倫関係が発生している分「職場秩序が乱されたり、企業の社会的信用が害される」と考えられやすい側面があるといえます。
 しかし、懲戒処分に関しての判断ではありますが、裁判例も職場の同僚間の不倫関係について、企業の社会的信用や職場秩序が乱されたと判断することについては慎重な判断をとっています(繁機工設備事件・旭川地判平成元・12・27労判554号17頁)。そのため、懲戒処分を行う際には、処分の相当性について慎重な判断が必要となることに注意しなければなりません。

参考文献

 本稿の執筆に当たり、以下の書籍を参考にさせて頂きました。ありがとうございました。

・最重要判例200 労働法(第5版)大内伸哉 著
・労働判例百選(第10版)村中孝史・荒木尚志 編
・詳解 労働法 水町勇一郎 著