第一交通産業事件 大阪高裁平成19年10月26日判決(偽装解散) 

事案の概要

(1) Y₁社は、タクシー事業等を営むA社を全株式の取得により完全子会社化し、自社取締役らをその経営陣や管理職に送り込んでA社の重要な業務の判断を全て行っていました

(2)Y₁社の完全子会社としてタクシー事業を営み、A社代表取締役でもある訴外Bが代表取締役を務めるY₂社は、Y₁社の支援等を得て、A社の営業区域に参加しました。

(3)Y₂社タクシー乗務員50数名は、A社内での募集に応じた非組合員でした。

(4)Y₁社から支援を大幅に縮小されたA社は、A社タクシー乗務員らを構成員とするX₁組合との団体交渉において、会社再建のための乗務員の賃金を減額する新賃金体系への変更申し入れを拒絶されました。
 そのため、Y₁社は、A社解散決議を行い、A社は、A社従業員全員の解雇の意思表示を行いました。

(5)本件被解雇者約50名のX₂らは、本件解雇の無効を主張して、主位的にY₁社に対する労働契約上の地位確認等、予備的にY₁社らへの不法行為に基づく未払賃金相当額の損害賠償等(第1事件)と、Y₂社に対する労働契約上の地位確認等(第2事件)を求める訴えを提起しました。

第一審は、第1事件におけるX₂らの主位的請求を斥け予備的請求を一部認める一方、第2事件ではX₂らの請求をほぼ認めました(X₂・Yら双方が控訴)。

判旨・判決の要約

原判決一部変更(X₂らの請求一部認容、一部却下、一部棄却)

(1)親会社による子会社の実質的・現実的支配がなされている状況下で、労働組合の壊滅等、違法・不当な目的で子会社の解散決議がなされ、かつ、同社が偽装解散されたと認められる場合には、子会社従業員は、親会社による法人格の濫用の程度が顕著かつ明白であるとして、親会社へ継続的、包括的な雇用契約上の責任を追及できる。

(2)A社の法人格は完全には形骸化していないものの、Y₁社は、A会社を実質的・現実的に支配していたと認められ、A社の解散は、新賃金体系の導入に反対したX₁組合を排斥するという不当な目的を決定的な動機として行われ、当該解散は、Y₁社がA社の法人格を違法に濫用したと解される。・・・A社とおおむね同一の事業をY₂社が継続していることに加え、Y₁社は、A社からX₁組合を排斥する目的でA社を解散し、その事業をY₂社に承継させたことからすると、A社の解散は偽装解散といわざるをえず、・・・X₂らはY₁社に雇用契約上の責任を追及できる。

解説・ポイント

 本判決の意義は、親会社が、事実上、完全子会社の労働組合員を排斥するという違法な目的を隠して行う当該完全子会社の解散は偽装解散にあたるので、これは親会社の法人格の濫用であり、親会社に対して、解散させられた子会社に勤めていた労働者たちは、雇用契約上の責任を追及できると判断した点にあります。 

 なお、判例上、雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ(雇用主と)同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる場合には、その限りにおいて、右事業者は、使用者にあたる(朝日放送事件、最判平7・2・28労判668号11頁)とされています。

 そのため、親会社が子会社の事業運営や労働者の待遇につき支配力を有している場合には、親会社は子会社従業員の労働条件について子会社と並んで団交上の使用者としての地位にあることになります。 
 その結果、親会社の雇用責任として、子会社の労働組合が親会社に対して団体交渉を要求してきたときにはこれに応じる必要があることになります。
 したがって、本件のY₁社は、完全子会社であったA社従業員X₂らの使用者に当たるということができるでしょう。 

参考文献

 本稿の執筆に当たり、以下の書籍を参考にさせて頂きました。ありがとうございました。

・最重要判例200 労働法(第5版)大内伸哉 著
・労働判例百選(第10版)村中孝史・荒木尚志 編
・詳解 労働法 水町勇一郎 著