新日本製鐵(日鐵運輸第2)事件 最高裁平成15年4月18日第二小法廷判決(出向の適法性) 

事案の概要

(1)Y社は製鐵会社であり、Y社に勤務するXらは、Y社の従業員で構成する労働組合の組合員でした。

(2)Y社の就業規則及び労働協約には、Y社の業務上の必要により社外勤務をさせることがある旨の規定がありました。また、労働協約である社外勤務規定には、社外勤務を出向と派遣とに分け、

①出向期間は原則3年以内とすること、
②業務上の必要により期間延長があり得ること、
③出向期間は勤続年数に通算されること、
④出向中の勤務時間等は勤続年数に通算されること、
⑤出向先での給与額がY社の給与額に満たないときはその差額をY社が支給すること

などが定められていました。

(3)Y社は、Y社従業員を業務委託していたZ社に出向させることとし、Xら従業員141名を選定しました。そして、対象者となった者に労働条件を明示して個別に話し合いを実施したところ、Xら他2名を除く労働者が出向に同意しました。

(4)Xらは、Y社の説得により出向先に赴任しました。その後、Xらの出向は3回延長されました。そのため、Xらは本件出向命令は無効であるとして訴えを提起した。

第一審請求棄却(Xらの請求は認められませんでした)
控訴審控訴棄却(やっぱりXらの請求は認められませんでした)

判旨・判決の要約

上告棄却

(1)Xらの入社時及び本件各出向命令発令時のY社の就業規則及びXらに適用される労働協約には、Y社が業務上の必要によって社外勤務をさせることがある旨の規定があり、労働協約において出向労働者の利益に配慮した詳細な規定が設けられているという事情の下においては、Y社はXらに対し、その個別的同意なしに本件各出向命令を発令することができるというべきである。

(2)在籍出向といわゆる転籍との本質的な相違は、出向元との労働契約関係が存続しているか否かという点にあるのであるから出向期間の長期化をもって直ちに転籍と同視することはできない。

(3)Y社の経営判断が合理性を欠くものとはいえず出向措置を講ずる必要性があったということができ、出向措置の対象となる者の人選基準には合理性があり、Xらがその生活関係、労働条件等において著しい不利益を受けるものとはいえない
 これらの事情にかんがみれば、本件各出向命令が権利の濫用に当たるということはできない。

解説・ポイント

 本判決の意義は、使用者に出向命令権が認められる場合にも、①業務上の必要性、②出向対象者の人選の合理性、③労働者の受ける不利益の程度、④出向命令発出までの手続の相当性の4点を基準として権利濫用の該当性を判断した点にあります。

 以下出向の概要について解説致します。 
 出向とは、出向元会社に在籍したまま出向先会社にて労務に従事させる人事異動をいい、在籍出向などということもあります。その目的も多様であり、子会社・関連会社への経営・技術指導、従業員の能力開発・キャリア形成、雇用調整、中高年齢者の処遇などに利用されています。

 また、配転命令権とは労働契約に基づく会社の基本的人事権の一つであり、就業規則等に規定することによって具現化しますが、出向は企業間の人事異動であり、企業内の移動である配転以上に根拠が問われることとなります。

 出向が有効となるための要件は2つであり、その内の1つとして、就業規則等の規定や採用時の同意(包括的な規定ないし同意)がありますが、出向にかかる要件を満たし、適法となる場合であっても、当該従業員にとって、賃金・労働条件、キャリア、雇用などの面で不利益が生じないようにするための配慮が必要となることに注意しなければなりません。

参考文献

 本稿の執筆に当たり、以下の書籍を参考にさせて頂きました。ありがとうございました。

・最重要判例200 労働法(第5版)大内伸哉 著
・労働判例百選(第10版)村中孝史・荒木尚志 編
・詳解 労働法 水町勇一郎 著