オリエンタルモーター事件 最高裁平成7年9月8日第二小法廷判決(施設管理権行使と支配介入)

事案の概要

(1) Zは、X社の従業員らにより結成された労働組合であり、団体交渉の結果、事業所内での組合事務所の設置をX社は基本的に了解しました。
 Zは組合事務所の設置場所等を内容とする覚書を渡して記名押印を求めましたが、X社は合意のない事項への協定締結には応じられないとしました。

(2) X社は、会場使用許可願の提出があれば、業務に支障がない限り、食堂の使用を許可していました
 Zが食堂で学習会を行っていたところ、守衛が参加者の氏名を記録したため、Z執行委員長らは抗議して守衛から記録用紙を提出させました。
 X社は、当該守衛業務が組合への干渉であるとの主張をZが維持するのであれば、施設利用を一切認めないとの警告通知を行いましたが、ZはX社の許可なく食堂を使用し続けました

(3) X社は、前日までに使用許可願を提出すること、外部者の入場は総務部長の許可を得ること、排他的な使用をしないこと等を誠実に守るのであれば、支障のない限り、食堂の使用を許可する旨をZに文書で申し入れました。
 これに対し、Zは、正当な理由がない限り食堂使用を拒まないこと、外部者の入場は制限しないこと等をX社に申し入れました。
 X社は、Zの申入れはX社の施設管理権を無視したもので容認できない旨を文書で回答しました。

(4) Zの申し立てを受けて、千葉地労委は、X社によるZの食堂使用の排除は支配介入に当たるとしました。
 中央労働委員会Yも同様の判断を行い、Zから食堂の使用の申入れがあった場合には、X社は誠意を持ってこれに応じなければならないと命令しました。
 そこで、X社は、Yの命令の取消を求めて提訴することになりました。

第一審:請求認容、控訴審:控訴認容

判旨・判旨の概要

一部破棄自判、一部上告棄却

(1) 労働組合又はその組合員…に対しその利用を許さないことが当該企業施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、当該企業施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであり、正当な組合活動に当たらない。

(2) 使用者が組合集会等のための企業施設の利用を労働組合又はその組合員に許諾するかどうかは、原則として、使用者の自由な判断に委ねられており、使用者がその利用を受忍しなければならない義務を負うものでないから、権利の濫用であると認められる場合を除いては使用者が利用を許諾しないからといって直ちに団結権を侵害し不当労働行為を構成するということはできない

(3)  本件では、Zは…無許可使用を5か月近く続けていたのであって…正当な組合活動に当たらない。…以上によれば、X社の権利の濫用であると認めるべき特段の事情があるとはいえず…X社の食堂使用の拒否が不当労働行為に当たるということはできない。

解説・ポイント

 本判決は、組合による使用者の施設利用について、使用者の施設管理権の権利濫用と認められる特段の事情のない限り、不当労働行為となる支配介入には当たらないと判断し、施設管理について使用者に一定の裁量がある旨、判断しました。
 
 また、本判例では、その態様から組合活動に正当性が認められず、施設利用の不許可が権利濫用には当たらないと判断しています。
 
 肝は、特段の事情の内容ですが、実務上は、そこに至るまでの労使間の経緯や使用者側の合理性、実質的な業務上の支障の程度、組合活動に与える影響など具体的事情を考慮して判断されているようです。

参考文献

 本稿の執筆に当たり、以下の書籍を参考にさせて頂きました。ありがとうございました。

・最重要判例200 労働法(第5版)大内伸哉 著
・労働判例百選(第10版)村中孝史・荒木尚志 編