旭ダイヤモンド工業事件 最高裁昭和61年6月10日第三小法廷判決(組合員資格の喪失と救済利益)

事案の概要

(1) Xは、ダイヤモンド工具の製造販売を目的とする会社であり、神奈川県に玉川工場を置いていました。玉川工場の従業員で組織する労働組合(以下「Z₁組合」)は、昭和49年5月当時、組合員206名を擁していました。

(2) Z₁組合は、昭和49年の春闘において、基本給アップの要求を掲げて同年5月分賃金計算期間内に、18日間の全日スト及びストライキの最終日である5月20日に2時間の時限ストを行いました。
 このうち、5月20日について、Z₁組合によるスト解除の連絡不徹底や自己都合等により、全日就労しなかった者が25名いました。

(3) XとZ₁組合との間には、ストライキの際には1日につき25分の1の割合により賃金カットを行うという労使慣行がありました。
 しかし、Xは、5月20日に時限スト以外の時間について就労した者については当該方式で算定し賃金を支払ったものの、当日不就労であった者については1か月間を通じストライキにより全く就労しなかったとして同月分の基本給全額をカットしました

(4) Z₁組合とその上部団体Z₂は、Xが上記25名について基本給額を全額カットしたことは不当労働行為に該当するとして、Y労働委員会に救済を申し立てました。
 Yは不当労働行為を認定し、カットされた賃金の支払及びポスト・ノーティス等を内容とする救済命令を発しました。

(5) Xは、退職ないし配転によりZ₁組合の組合員資格を喪失した者に対する上記救済命令の取消を求めて提訴しました。

第一審:一部請求認容、控訴審:Xの控訴認容

判旨・判旨の概要

破棄自判

(1)労働組合法27条に定める労働委員会の救済制度は、労働者の団結権及び団体行動権の保護を目的とし、同法7条の規定の実効性を担保するために設けられたものであり、本件賃金カットは…労組法7条1号及び3号の不当労働行為に当たる。

(2) Z₁組合及びZ₂は…正常な集団的労使関係秩序を回復・確保するため救済を受けるべき固有の利益を有するものというべきであって、組合員が組合員資格を喪失したとしても、Zらの固有の救済利益に消長を来たすものではない。

(3) もっとも、労働組合の求める救済内容が組合員個人の雇用関係上の権利利益の回復という形をとっている場合には…当該組合員の意思を無視して実現することはできないと解するのが相当であり、当該組合員が積極的に右の権利利益を放棄する旨の意思表示をなし、又は労働組合の救済命令申立てを通じて右権利利益の回復を図る意思のないことを表明したときは、労働組合は…救済を求めることはできないが、かかる積極的な意思表示のない限りは、労働組合は当該組合員が組合員資格を喪失したかどうかにかかわらず救済を求めることができるものというべきである。

解説・ポイント

 本判例は、労働組合には正常な集団的労使関係秩序を回復・確保するため救済を受けるべき固有の利益があるため、当該労働者が権利利益の回復を積極的に放棄するような事情のない限り、(当該組合員が)労働組合員資格を喪失しても、上記救済を受ける利益は消失しない、と判断しました。
 
 このように、組合員資格を喪失しても、その資格の有無にかかわらず、労働組合には労働委員会に対して救済を求めることができると判断した点に意義があるといえるでしょう。

参考文献

 本稿の執筆に当たり、以下の書籍を参考にさせて頂きました。ありがとうございました。

・最重要判例200 労働法(第5版)大内伸哉 著
・労働判例百選(第9版)村中孝史・荒木尚志 編