1か月単位の変形労働時間制とは
法定労働時間とは異なる
1か月単位の変形労働時間制とは、1か月以内に限り「1日8時間、1週間40時間」という法定労働時間を超えて、労働者を労働させる制度のことをいいます。
変形労働時間制の種類と趣旨
1か月単位の変形労働時間制以外にも、変形労働時間制には、1年単位の変形労働時間制や1週間単位の非定型的変形労働時間制、フレックスタイム制の3種があります。
これら変形労働時間制は、業種や職種によって、繁忙期などに法定労働時間を守って労働者を労働させることが難しい場合があることから、使用者の便宜を図るため、例外的に設けられたものです。
採用要件
使用者が1か月単位の変形労働時間制を採用するためには、次の2つの要件を満たす必要があります。
1.労使協定又は就業規則その他これに準ずるものにより定めること
2.協定事項を定めること
1の労使協定か就業規則その他これに準ずるものによって定めるかは使用者が任意に決定することになります。ただし、「その他これに準ずるもの」とは、就業規則を作成する義務のない常時10人未満の労働者を使用する事業所が対象となります。
なお、1か月単位の変形労働時間制は、上記労使協定又は就業規則その他これに準ずるものを締結するだけで効力が発生することになります。
この点、36協定のように、所轄労働基準監督署長への届出までは必要とされていない点に注意が必要です。
協定事項とは
協定事項とは、労使間で1か月単位の変形労働時間制を採用する上で定める内容のことをいいます。
具体的には以下の事項を定める必要があります。
変形期間
変形期間とは、1か月単位の変形労働時間制によって労働させる期間のことをいいます。変形期間を定める場合には、変形期間の起算日を定める必要があります。起算日については、特段の定めはないので、必ずしも1日から始める必要はありません。
また「1か月単位の変形労働時間制」なので、1か月以内の期間に限ります。
法定労働時間を超えない定め
正確には「変形期間を平均し、1週間当たりの労働時間が1週間の法定労働時間を超えない定め」を協定事項として定めなければなりません。
要するに、変形期間における所定労働時間の合計が、次の計算式により計算した法定労働時間の総枠に収まっている必要があるということです。
40時間×変形期間の暦日数÷7
まあ、これだと分かりにくいですね。
具体例を挙げますと、変形期間の暦日数が31日の場合は「40時間×31日÷7≒177.1時間」となり、暦日数が30日の場合は「40時間×30日÷7≒171.4時間」、暦日数が28日の場合は「40時間×28日÷7=160時間」となります。
この各暦日数に従い1か月あたり177.1時間、171.4時間、160時間という枠に労働時間が収まっていればよいということです。
このように、1か月単位の変形労働時間制を採用した場合の労働時間の総枠はその月の暦日数によって異なってきます。
変形期間中の具体的な労働時間
正確には「変形期間における各日及び各週の具体的な労働時間」を協定事項として定めなければなりません。
要するに、使用者が任意に労働時間を変更することを防ぐために、休日も含めて労働日を特定しなければならないということです。
有効期間の定め
労使協定によって導入する場合には、その有効期間を定めなければなりません。
ただし、労使協定が同時に労働協約である場合には、有効期間を定める必要はありません。
採用後の事後手続
1か月単位の変形労働時間制を採用する際の規定により、その後の手続きが微妙に異なってきます。
たとえば、労使協定又は就業規則により、1か月単位の変形労働時間制を採用する場合には、所轄労働基準監督署長への届出が必要となり、加えて労働者への周知も必要となります。
他方「その他これに準ずるもの」により採用する場合には、所轄労働基準監督署長への届出が不要で、労働者への周知だけで足りることになります。
なお、労使協定又は就業規則により採用する場合には、届出自体は効力発生要件ではありませんが、これ(届出)を懈怠すると、30万円以下の罰金を科されることになるので注意が必要です。
まとめ
本稿では、1か月単位の変形労働時間制を採用する際の手続きについて解説しました。
1か月単位の変形労働時間制を採用する際のポイントは、就業規則や労使協定により協定事項を定めた上で、所轄労働基準監督署長に届け出て、労働者に周知するということです。
1か月単位の変形労働時間制の効力自体は、就業規則や労使協定の定めのみによって発生するので、使用者にとっては、労働者を「1日8時間、1週間40時間」という法定労働時間を超えて使用する場合には、36協定と並んで採用を検討したい制度といえそうです。