長時間労働者に対する面接指導

はじめに

 事業者には、長時間労働者に対して、脳疾患・心臓疾患の発生を防止するために、適正な措置を講ずることが義務付けられています。
 
 事業者は、その労働時間の状況その他の事項が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当する労働者に対して、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導を行わなければなりません。

 具体的には、労働時間(健康管理時間)が長時間となりやすい特定の者らに対して、心身の状況を把握するために、定期的な面接指導の実施が義務付けられています。面接指導には以下の3種があります。

1.長時間労働者に対する面接指導
2.研究開発業務従事者に対する面接指導
3.高度プロフェッショナル制度対象者に対する面瀬指導

 本稿では、1の長時間労働者に対する面接指導について紹介します。

長時間労働者とは

対象労働者

 長時間労働者となる対象労働者とは、休憩時間を除き、1週間当たり40時間を超えて労働させた場合に、その40時間を超えた時間が1か月当たり80時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められる者のことをいいます。
 
 この「40時間を超えた時間」には、時間外労働時間だけでなく、休日労働時間も含まれることになります。「40時間を超えた時間」の算定は、毎月1回以上、一定の期日を定めて、つまり定期的に行われなければならないとされています。

 労働者は、事業者が行う面接指導を受けなければならず、事業者の指定した医師が行う面接指導を受けたくない場合には、他の医師が行う「長時間労働者に対する面接指導」を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出しなければなりません。

事業者による通知

 事業者は、上記「40時間を超えた時間」の算定を行った時は、速やかに、40時間を超えた時間が1か月当たり80時間を超えた労働者に対して、当該労働者に関する当該超えた時間に関する情報を通知しなければなりません。

適用除外者

 「研究開発業務従事者に対する面接指導」の対象となる者と「高度プロフェッショナル制度対象者に対する面接指導」の対象となる者は、「長時間労働者に対する面接指導」の対象から除かれています。
 それぞれ要件が異なり、すみ分けがなされており、重畳的に適用されないということです。

費用・賃金の支払い

面接指導の費用

 面接指導の費用については、労働安全衛生法で事業者に面接指導の実施を義務付けている以上、事業者が全額負担することになっています。

 なお、派遣労働者に対しては、派遣元事業者に面接指導の実施義務があるため、派遣元事業者が面接指導の費用を負担することになります。

面接指導中の賃金

 面接指導を受けるのに要した時間に係る賃金の支払いについては、定期健康診断と同様に、当然に事業者が支払わなければならない、とはされておらず(つまり賃金を払わなくても違法ではない)、労使間の協議で定めるものとされています。

 もっとも、(道義的に)面接指導中の時間に係る賃金については、事業者において負担するのが望ましいと考えられてます。

面接指導の実施

面接指導の流れ

 長時間労働者に対する面接指導は、以下の1~3の流れで実施されることになります。

1.事業者による40時間を超えた時間が1か月当たり80時間を超えた労働者への通知
2.1の通知後、対象となる長時間労働者より遅滞なく申出が行われること
3.2の申出後、事業者による遅滞なく面接指導を実施

 なお、我慢強い労働者もいますので、産業医は、対象となる長時間労働者に対して、面接指導の申出を行うよう勧奨することができます

面接指導時の確認事項

 面接指導を行う医師は、次の事項を確認する必要があります。

1.対象労働者の勤務状況
2.対象労働者の疲労の蓄積の状況
3.対象労働者の心身の状況

 なお、面接指導を実施する医師としては、産業医や産業医の要件を備えた医師など労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する情報を持つ医師が望ましいとされています。

面接指導後の意見聴取

 事業者は、面接指導の結果に基づき、対象労働者の健康を保持するために必要な措置について、面接指導が実施された後又は労働者が面接指導の結果を証明する書面を事業者に提出した後、遅滞なく医師の意見を聴かなければなりません

面接指導後の措置

 事業者は、面接指導後に遅滞なく医師の意見を聴取した後、医師の意見を勘案し、必要があると認める時は、対象労働者の実情を考慮して以下の措置を講じなければなりません。

1.就業場所の変更
2.作業の転換
3.労働時間の短縮
4.深夜業の回数の減少等

 その他にも、面接指導を行った医師の意見の衛生委員会、安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会への報告なども事後措置として講じなければなりません。

まとめ

 本稿では「長時間労働者に対する面接指導」の対象者から長時間労働者に対する面接指導実施までの流れ、事業者の講ずべき措置などについて紹介しました。

 本稿のポイントは、1週間当たり40時間を超えて労働させた場合に、その40時間を超えた時間が1か月当たり80時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められる労働者から面接指導の申出があった場合には、事業者には当該長時間労働者に対する面接指導の実施が義務付けられるという点です。

 恒常的に長時間労働が行われている事業の使用者は、本稿で案内したような面接指導の実施が義務付けられていることに注意が必要です。