はじめに
今回は、厚生年金保険法で登場する「経過的加算額」についてご紹介致します。
この「経過的加算額」という言葉も、普段の生活では聞かない言葉ですが、一定の年齢の方たちの年金額に関わる重要な年金への加算額となるものです。
マニアックな知識ではありますが、一部の方たちには、役に立つかもしれませんので、その概要などを解説していきます。
経過的加算額とは
基礎知識のおさらい
経過的加算額を学ぶ前に、基礎知識として、特別支給の老齢厚生年金というものを押さえておく必要があります。なぜなら、経過的加算額とは、特別支給の老齢厚生年金の定額部分から65歳から支給される老齢基礎年金との差額を埋めるために支給される年金のことをいうからです。
つまり、特別支給の老齢厚生年金を理解しておかないと、何のことかさっぱり分からないということになってしまうからです。
特別支給の老齢厚生年金とは
特別支給の老齢厚生年金とは、旧法時代において60歳から支給されていた老齢厚生年金をを現在の新法の下においても、当分の間の措置として、60歳代前半から支給される老齢厚生年金のことをいいます。
この特別支給の老齢厚生年金は、旧法における老齢年金に準じて、定額部分と報酬比例部分からなりますが、段階的に定額部分を廃止し、報酬比例部分のみの年金に切り替えられます。
そして、その後、報酬比例部分も段階的に廃止していき、最終的には、60歳代前半の老齢厚生年金は廃止されることになっています。
定額部分・報酬比例部分とは
「定額部分」とは、現役時代の報酬に関わらず、加入期間に応じて算定される年金のことをいい、原則65歳から支給される新法の老齢基礎年金に相当するものです。
他方、「報酬比例部分」とは、現役時代の報酬を基礎として算定される年金のことをいい、原則65歳から支給される新法の老齢厚生年金に相当するものです。
因みに、60歳代前半と後半の年金は、まったく別個の年金であり、60歳代前半の老齢厚生年金は65歳到達時に失権し、65歳から新たな年金の受給権が発生することになります。
経過的加算額の制度趣旨
特別支給の老齢厚生年金の受給権者が65歳になると、特別支給の老齢厚生年金の定額部分に相当する年金として、老齢基礎年金が支給されるようになります。
しかし、定額部分の支給額については、下記のとおり、新法の老齢基礎年金に反映されない部分が含まれています。
1.国民年金創設前の厚生年金保険の被保険者期間が含まれること
2.20歳前、60歳以後の被保険者期間が含まれること
3.被保険者期間の特例が適用されると、その期間が3分の4倍、5分の6倍されること
つまり、定額部分の支給額は、新法の老齢基礎年金よりも多くなる傾向にあったということです。
そのため、定額部分と老齢基礎年金の差額を埋めるために、経過的加算を加算することとなりました。経過的に加算するがくであることから「経過的加算額」と呼ばれるようになったのです。
加算額とはいいますが、旧法の定額部分と新法の老齢基礎年金の差額であるという点に注意しなければなりません。
経過的加算額の計算式
具体的な経過的加算額の計算式は、次の「定額部分の計算式」から算定した金額より「老齢基礎年金部分の計算式」から算定した金額を控除した金額となります。
定額部分の計算式
1,628円×改定率×被保険者期間の月数
昭和21年4月1日以前に生まれた者については、上記の計算式に、さらに生年月日に応じて政令で定める率(1.875~1.032)を乗じることになります。
老齢基礎年金部分の計算式
780,900円×改定率×{(昭和36年4月1日以後における20歳以上60歳未満の被保険者期間の月数)/加入可能年数×12}
まとめ
いかがでしたでしょうか。経過的加算額を算定するための計算式は複雑で分かり難いので、ザックリと見ておけばよいでしょう。日常生活で、実際に計算することはないはずです。
要するに、経過的加算額とは、旧法との差額が支給されているものに過ぎず、当分の間の措置だということです。
特別支給の老齢厚生年金は、段階的に廃止されていくので、特別支給の老齢厚生年金の支給廃止後は、経過的加算額もなくなっていくものです。
本稿をご覧になっている方で、直接関係のある人は少ないかもしれませんが、既に年金を受給し、それが特別支給の老齢厚生年金であるのであれば、経過的加算額が未支給になっていないか確認しておくのとよいと思われます。