書泉事件 東京地裁平成4年5月6日判決(違法なピケッティング)

事案の概要

(1) Xは、書籍、雑誌販売を業とする株式会社でした。Y₁は、正社員及びパートタイマーらで結成された法人格なき社団の労働組合であり、Y₂~Y₅(以下「Y₂ら」)はいずれもY₁の組合員で、Y₂はY₁結成時に執行委員長に、Y₃及びY₄は副委員長に、Y₅は書記長に就任しました。
 また、Y₆、Y₇及びY₈(以下「Y₆ら」)は、別の会社の労組の役員等であり、Y₁を支援していた者でした。

(2)Y₁は、春闘要求の実現を目指して、ストライキを実施し、店舗前においてピケッティング(ストライキ維持・強化のために就労しようとする他の労働者や入構しようとする取引先・顧客等に対して入構しないよう働きかける行為)を行いました。また、Y₂らは、他の組合員と共同して本件ピケッティングを実施しました。さらに、Y₆らは、Y₁組合員らの本件ピケッティングを支援していました。

(3) 本件ピケッティングに際しては、入店を試みた顧客に対して罵声を浴びせ入店を阻止し、また、組合員数名で取り囲んで書籍購入を断念させるなどの態様で実施されました。

(4) これに対して、Xは、Yらに対して売上げに損害が生じたとして損害賠償請求を行いました。

判旨・判旨の概要 

請求認容(確定)

本件ピケストの違法性について

 本件ピケストは平和的説得の範囲を超えたものであり違法である。

Y₁及びY₁組合員らの責任について

 Y₂らは、いずれもY₁組合役員として違法な本件ピケストの実施を決定し、他の組合員と共同してこれを実行した者であるから、Xに対し、共同不法行為(民法719条1項)に基づき…損害を賠償すべき責任がある。
 権利能力なき社団であるY₁は、民法44条1項の類推適用により、本件ピケスト実施について不法行為責任を負う。…Y₁組合員の行動は一面社団であるY₁の行為であると同時に、組合員個人の行為である側面を有するので組合員個人についても不法行為責任が成立する

支援労働者であるY₆らの責任について

 支援労働者であっても当該違法な争議行為への加功の程度、態様いかんによっては、共同不法行為者としての責任を負うべき場合がある
 Y₆らは、助言、指導を与えて右ピケストにも一部参加していたので、共同不法行為者としての責任を負うべきである。

解説・ポイント

本判決の意義

 本判決の意義は、言論による説得など平和的な説得を超えた態様で行われた争議行為は、違法性が阻却されず、当該争議行為を行った組合員らに対して、使用者は不法行為に基づく損害賠償請求を行うことができると判断した点にあります。

 なお、争議行為以外の団体行動は「組合活動」と呼ばれ、主体や目的、態様など争議行為とは異なる基準でその正当性が判断されています。

参考文献

 本稿の執筆に当たり、以下の書籍を参考にさせて頂きました。ありがとうございました。

・最重要判例200 労働法(第5版)大内伸哉 著
・労働判例百選(第10版)村中孝史・荒木尚志 編
・詳解 労働法 水町勇一郎 著