事案の概要
(1) 株式会社Xには、従来より労働組合Aのみが存在していました。
しかし、Aの内部抗争の結果、Aと名乗る労働組合B₁とC₁、及びB₁、C₁の各支部たる労働組合B₂とC₂、B₃とC₃が別個独立に併存するに至りました。
(2) X・A間にはチェック・オフ協定がありましたが、Bらは別個独立の労働組合としての存在が認められる直前の時期に、Xに対し、チェック・オフの中止の申入れを行い、その後、既にチェック・オフが行われた月の組合費相当額の返還を求める等しました。
(3) Xは、Cら提出の対象者リストに従い、B₂、B₃の組合員の給与からのチェック・オフを継続し、かつ控除した組合費相当額をC₂、C₃に交付し続けました。
(4) B₁とB₂、B₁とB₃はそれぞれ本件行為等は労働組合法7条が定める不当労働行為に該当すると主張し救済を申し立てたところ、一部につき救済命令が出されました。
労使双方からの再審査を受けた中央労働委員会Yは、初審の救済命令を少し修正し、本件行為につき労組法7条1号の不利益取扱い及び同条3号の支配介入の成立を認める一方で、支部に所属する組合員の給与から、昭和58年4月分以降、チェック・オフした組合費相当額およびこれに対する年5分の割合による金員を付加して支部に支払わなければならない、という内容の救済命令を発しました(これが労働委員会の裁量権を逸脱しているとして問題となりました)。
(5) XはYの命令の取消を求め提訴しました。
第一審:請求棄却、控訴審:控訴棄却
判旨・判旨の概要
一部破棄自判、一部上告棄却
(1) 私法上、使用者が有効にチェック・オフを行うためには、使用者・労働組合間でのチェック・オフ協定の締結と個々の組合員による賃金からの組合費相当額の控除とその労働組合への交付についての使用者への委任が必要である。
(2) チェック・オフにより控除された組合費相当額は本来組合員自身がXから受け取るべき賃金の一部であるから、Xをして今後のチェック・オフを中止させた上、控除した組合費相当額をB₁所属の組合員に支払わせるならば…不当労働行為がなかったのと同様の事実上の状態が回復されるというべきである。
(3) これに対して、控除した組合費相当額をB₂、B₃に支払うよう命じる部分の救済命令は…B₁とXとの間にチェック・オフ協定が締結され、B₁所属の個々の組合員がXに対しその賃金から控除した組合費相当額をB₂、B₃に支払うことを委任しているのと同様の事実上の状態を作り出してしまうこととなる。
(4) したがって、本件命令部分は、労働委員会の裁量権の合理的行使の限界を超える違法なものである。
解説・ポイント
本判決の意義は、そもそもチェック・オフが認められるためには①労使間でチェック・オフ協定の締結があること及び②組合員と使用者との間で支払委任があることが必要であることを確認する一方で、②の組合員からの支払委任がないにも関わらず、労働委員会が裁量により、使用者から労働組合へ賃金から控除した組合費を当該組合へ支払うことは、救済命令として裁量を逸脱したものであると判断したことにあります。
要するに、労働委員会には救済命令の具体的内容について裁量はあるものの、本件では、チェック・オフ協定という契約違反を行っている(私法上の法律関係から著しくかけ離れている)のでやり過ぎであり違法と判断されたものと考えられます。
参考文献
本稿の執筆に当たり、以下の書籍を参考にさせて頂きました。ありがとうございました。
・最重要判例200 労働法(第5版)大内伸哉 著
・労働判例百選(第9版)村中孝史・荒木尚志 編