都南自動車教習所事件 最高裁平成13年3月13日第三小法廷判決(書面性を欠く労働協約)

事案の概要

(1) Xらは、Y社に勤務する従業員でした。Y社には、A組合のほかY社と協調路線を採るB組合が存在し、XらはA組合の組合員でした。

(2) Y社は、就業規則を新賃金体系の内容に改定し、Xらを含めた全従業員に対して新賃金体系に基づく賃金を支給するようになりました。

(3) Y社とA組合は、労使交渉を行いました。Y社は、ベースアップを行うことを認め、A組合に対し、その旨の協定書作成を求めました。
 A組合は引上げ額には同意したものの、新賃金体系を前提とする協定書作成に応じることは新賃金体系を承認する意味を持つと考え協定書作成に応じませんでした

(4) Y社は、労働協約の書面不作成を理由にXらに対してベースアップ分の賃金を支給しませんでした。
 他方、Y社は、新賃金体系に同意したB組合の組合員及び非組合員に対してはベースアップ分の賃金を支給しました

(5) Xらは、Y社に対してベースアップ分の未払賃金等を求めて提訴することになりました。

原判決:請求認容

判旨・判旨の要約

一部破棄自判、一部破棄差戻し

(1) 労働組合法14条が、労働協約は書面にて作成し、両当事者が署名し又は記名押印することによってその効力を生ずることとしているゆえんは、労働協約に労働契約の内容を規律するという法的効力を付与することとしている以上その存在及び内容は明確なものでなければならないからである。

(2) 労働協約…の履行をめぐる不必要な紛争を防止するために、団体交渉が最終的に妥結し労働協約として結実したものであることをその存在形式自体において明示する必要がある
 …書面に作成され、かつ、両当事者がこれに署名し又は記名押印しない限り、仮に、労働組合と使用者との間に労働条件その他に関する合意が成立したとしても、これに労働協約としての規範的効力を付与することはできないと解すべきである。

(3) Y社とA組合とは…いずれの合意についても、協定書を作成しなかったというのであるから…労働協約の効力の発生要件を満たしていないことは明らかであり…労働協約が成立し規範的効力を具備しているということができないことは論をまたない。

解説・ポイント

 本判決の意義は、労働協約は書面で作成した上で、署名又は記名押印をしない限り、規範的効力が認められないと判断した点にあります。本件では、労働協約について合意が成立していましたが、協定書など書面を作成していなかったため、労働協約の規範的効力は否定されることになりました。

参考文献

 本稿の執筆に当たり、以下の書籍を参考にさせて頂きました。ありがとうございました。

・最重要判例200 労働法(第5版)大内伸哉 著
・労働判例百選(第10版)村中孝史・荒木尚志 編
・詳解 労働法 水町勇一郎 著