細谷服装事件 最高裁昭和35年3月11日第二小法廷判決(予告を欠く解雇)

事案の概要

(1)Xは、洋服の制作修理を業とするY社に、昭和24年4月1日賃金1か月1万円支払期日毎月末日の約束で雇われ、同日よりY社の一般庶務、帳簿記入等の労務に従事していました。

(2)Y社は、Xに昭和24年8月4日に予告なしに一方的に解雇を通知しました(流石に今の時代こういうことはない)。

(3)Xは、この解雇は不当解雇であり、当時の一般会社の例により賃金3か月以上6か月分の中間4か月半分の4万5000円の解雇手当を支払うべき義務があると主張して提訴しました。

【第一審】
Xの請求は棄却されました。そこで、Xが控訴しました。

【控訴審・控訴審判決の要約】
 控訴審において、Y社は昭和26年3月19日に、昭和24年8月分の給料と解雇予告手当を支払ったので、Xは、同日をもって初めて解雇の効力が生じ同日まで従業員の地位を有していたとして、昭和24年8月以降昭和26年3月までの20か月分の給料合計より既に受領した金額を控除した17万9368円の未払賃金及び労基法114条に基づき解雇予告手当同額の付加金等の支払いを請求しました。

 控訴審判決は、労基法20条の定める予告期間を設けず、かつ予告手当の支払いもせずになした解雇の意思表示は、即時解雇としての効力を生じ得ないが、即時の解雇が認められない以上解雇する意思表示がないというのでない限り、同解雇通告は、その後同条所定の30日の期間経過によりその効力を生ずると解するのが相当である(と判示しました)。

 YがXに行った昭和24年8月4日の前記解雇通知は、その30日後の同年9月3日の経過とともに効力を生じ、昭和24年9月までの給料は完済されているからXの請求には理由がないとして控訴を棄却しました。

判旨・判旨の要約

上告棄却

(1)使用者が労働基準法(以下「労基法」といいます)20条所定の予告期間をおかず、または予告手当の支払いをしないで労働者に解雇の通知をした場合、その通知は即時解雇としての効力は生じないが、使用者が即時解雇を固執する趣旨でない限り、通知後同条所定の30日の期間を経過するか、または通知の後に同条所定の予告手当の支払いをしたときは、そのいずれかのときから解雇の効力を生ずるものと解すべきである。

 本件解雇の通知は、30日の期間経過と共に解雇の効力は生じたものとする原判決(控訴審判決)の判断は正当である。

(2)労基法114条の付加金支払義務は、使用者が予告手当等を支払わない場合に、当然発生するものではなく、労働者の請求により裁判所がその支払を命ずることによって初めて発生するものと解すべきである。
 
 本件では、既に予告手当に相当する金額の支払を完了し使用者の義務違反の状況が消滅しており、付加金請求の申し立てをすることができない。

解説・感想

 本判決の意義は、予告期間を設けないで解雇通知を行った場合、当該解雇通知が即時解雇の趣旨でない限り、予告期間の30日(労働基準法20条)を経過すれば解雇することができると判断した点にあります。

 そもそも(懲戒)解雇権の行使が適法と言えるためには、当該解雇に客観的合理性社会通念上相当性が必要となります(労働契約法16条)。

 本判例では解雇事由が明示されておらず、この解雇が整理解雇なのか懲戒解雇なのかも判然としませんが、仮に労働者に非があったとしても、予告期間を設けずに解雇通知を行っている時点で、上記客観的合理性はともかく、社会通念上相当性が認められない可能性が高いように思います。
 
 懲戒解雇よりも適法となる要件の厳しい整理解雇はもちろん、解雇まで行わなくても、より軽い懲戒処分で懲戒の目的が達成できるなら、解雇処分という最も重い処分を選ぶことは社会的に相当とはいえないでしょう。

 予告なく解雇を行う前に、そもそも解雇の客観的合理性と社会通念上相当性があるのか、専門家の意見を聞きつつ、これらを慎重に検討しなければなりません。予告なく、30日分以上の平均賃金の支払いもなく解雇を行っている時点で、現在なら解雇権の濫用(労働契約法16条)として違法となる可能性が高いでしょう。

参考文献

 本稿の執筆に当たり、以下の書籍を参考にさせて頂きました。ありがとうございました。

・最重要判例200 労働法(第5版)大内伸哉 著
・労働判例百選(第10版)村中孝史・荒木尚志 編
・詳解 労働法 水町勇一郎 著