事案の概要
(1)Y社と訴外A労働組合は、チェック・オフ協定を締結しており、Y社の従業員でありA労働組合員であるXらはY社にチェック・オフを依頼していました。
(2)Xらは、昭和57年10月14日までにA労働組合を脱退して訴外B労働組合を結成し、同年11月5日にYにチェック・オフ依頼撤回の意思表示をしましたが、Y社は、Xらの同年10月25日から昭和58年3月25日までの毎月の賃金及び昭和57年11月支給の一時金からA労働組合の組合費相当額を控除しA労働組合に交付していました。
(3) そこで、Xらは、Yに対して不法行為に基づく損害賠償として当該チェック・オフ相当額と遅延損害金の支払いを求めて提訴しました。
第一審:請求認容
第二審:昭和57年11月5日以降のチェック・オフを違法と判断し、その範囲で請求を認容
判旨・判旨の要約
上告棄却
(1)労働協約の形式により締結された場合であっても、当然に使用者がチェック・オフをする権限を取得するものではないことはもとより、組合員がチェック・オフを受忍すべき義務を負うものではないと解すべきである。
(2) 使用者と労働組合との間に労働協約が締結されている場合であっても、使用者が有効なチェック・オフを行うためには、右協定の外に使用者が個々の組合員から賃金から控除した組合費相当分を労働組合に支払うことにつき委任を受けることが必要である。
(3)チェック・オフ開始後においても、組合員は使用者に対し、いつでもチェック・オフの中止を申し入れることができ、右中止の申入れがなされたときには、使用者は当該組合員に対するチェック・オフを中止すべきものである。
解説・ポイント
本判決の意義は、チェック・オフ協定が使用者と労働組合との労働協約だけでなく、組合員と使用者との間の委任契約に基づくものであるため、委任契約の法的性質上、いつでも組合員から解約することができると判断した点にあります。
本件とは関連性はありませんが、弁護士や司法書士などに事件の処理を依頼する場合にも、委任契約を締結することになります。
依頼する側の一般的な認識として、一度委任契約を結ぶと、解約は難しいとの認識がありますが、委任契約は他の契約形態以上に、当事者間の信頼関係に基づく契約であるため、法的拘束力は強くありません。信頼関係が失われたと思えば、一方的に契約を解消できることを忘れてはいけません。
参考文献
本稿の執筆に当たり、以下の書籍を参考にさせて頂きました。ありがとうございました。
・最重要判例200 労働法(第5版)大内伸哉 著
・労働判例百選(第10版)村中孝史・荒木尚志 編
・詳解 労働法 水町勇一郎 著