大成観光事件 最高裁昭和57年4月13日第三小法廷判決(就業時間中の組合活動)

事案の概要

(1) X社は、ホテルオークラを経営する会社でした。X社のホテルの従業員で組織するA労働組合は、Bホテル労連に加盟していました。

(2)A労働組合は、賃上げを求めてX社と団体交渉を行いましたが、回答を不満として2度にわたり就業時間中に胸にリボンを着用して就労する「リボン闘争」を実施しました。
 着用したリボンは直径6㎝の又は直径5㎝の花形で、それぞれ黒字又は朱書きの「要求貫徹」などの文字が印字されていました。

(3)X社は、警告を無視してリボン闘争を指導したとして組合三役Cら6名に懲戒処分を行いました。

(4)A労働組合、Bホテル労連及びCらは懲戒処分は不当労働行為に当たるとして救済を申し立てたところ、東京地労委Yは本件処分は正当な争議行為に対する不利益取扱い(労組7条1号)に当たるとして救済命令を発しました。

(5)X社は、命令の取消しを求めて行政訴訟を提起しました。

第一審:請求認容、控訴審:控訴棄却

判旨・判旨の概要

上告棄却

(1)本件リボン闘争は就業時間中に行われた組合活動であって参加人組合の正当な行為に当たらないとした原審の判断は結論において正当として是認することができる。

(2)(伊藤正巳補足意見)就業時間中の組合活動は、使用者の明示又は黙示の承諾があるか又は労使の慣行上許されている場合のほか認められないとされているが、これは、労働者の負う職務専念義務、すなわち労働契約により労働者は就業時間中その活動力をもっぱら職務の遂行に集中する義務を負うことに基づくものとされている。

(3)もっとも、職務専念義務と何ら支障なく両立し、使用者の業務を具体的に阻害することのない行動は必ずしも職務専念義務に違背するものではないと解する。
 職務専念義務に違背する行動に当たるかどうかは、使用者の業務や労働者の職務の性質・内容,当該行動の態様など諸般の事情を勘案して判断されることになる。

(4)本件リボン闘争は、組合員たる労働者の職務を誠実に履行する義務と両立しないものであり、ホテルの業務に具体的に支障を来すものと認められる。

解説・ポイント

 本判決の意義は、就業時間中の組合活動は正当な組合活動にあたらないとしてX社の懲戒処分を適法とあっさりと判断した一方で、伊藤正巳裁判官の補足意見において、就業時間中の組合活動であったとしても、職務の性質、内容、組合活動の態様などから労働者の職務専念義務と両立し得るといえる場合には、正当な組合活動にあたる可能性があると判断した点にあります。

 要するに、伊藤正巳裁判官の補足意見に従えば、就業時間中の組合活動であったとしても、これを理由に直ちに職務専念義務違反として懲戒処分を行うことは難しいということです。
 
 補足意見に従えば、本件では、着用したリボンの大きさもそれほど大きなものではなく、また活動の回数も2回と少なく、組合員以外の者の就労に対する影響も小さいこと等から、反対の結論になることもあり得たものと考えられます。

参考文献

 本稿の執筆に当たり、以下の書籍を参考にさせて頂きました。ありがとうございました。

・最重要判例200 労働法(第5版)大内伸哉 著
・労働判例百選(第10版)村中孝史・荒木尚志 編
・詳解 労働法 水町勇一郎 著