東芝労働組合小向支部・東芝事件 最高裁平成19年2月2日第二小法廷判決(脱退の自由)

事案の概要

(1)平成元年4月1日、XはY₂社に雇用され、試用期間満了後の同年7月1日、Y₂社との間でユニオン・ショップ協定及びチェック・オフ協定を含む労働協約を締結している労働組合Y₁に加入しました。
 同協約は、Y₁をY₂社の唯一交渉団体とも規定していました。

(2)平成7年9月末頃、Y₁に不満を抱いたXは他のA組合に加入し、Y₁に脱退届を送付したところ、Y₁はその受領を留保し、脱退を思い留まるよう説得に努めました。
 他方、X及びA組合はY₂社に対しA組合への加入を通知するとともに団体交渉を申し入れましたが、Y₂社はY₁が脱退届の受理を留保していることを理由に交渉に応じなませんでした。
 そこで、X及びA組合は、Y₂社の上記対応が不当労働行為に当たるとしてK地労委に救済を申し立てました。

(3)平成8年1月ころ、Y₂社とX及びA組合とは、K地労委の了解の下に和解に向けた協議を開始しました。特段の事情がある場合には、A組合はXがその組合員であることを主張することができる旨の合意(以下「本件付随合意」という。)が成立したことを受け、A組合への和解金の支払い、不当労働行為の救済申立ての取り下げ等の和解が成立し、XはY₁から脱退する旨の意思表示を撤回しました。

(4)平成10年9月、A組合から脱退した者らによってB組合が結成され、XもA組合を脱退し、B組合に加入しました。

(5)平成13年5月16日、XはY₁に対し脱退の意思表示をするとともに、Y₂に対してチェック・オフの中止を申し入れました

(6)Xは、Y₁に対しては、XがY₁の組合員としての地位を有しないことの確認のほか、チェック・オフにより組合費として納付された額に相当する不当利得の返還及び個人積立金の返還を求め、Y₂社に対しては、Y₂社がY₁の組合費を控除しない金額の賃金をXに支払う義務を負うことの確認を求めて提訴しました。

第一審:請求認容、控訴審:控訴認容

判旨・判旨の要約

破棄自判

(1)一般に、労働組合の組合員は、脱退の自由、すなわち、その意思により組合員としての自由を有するものと解される。

(2)Xが本件付随合意に違反してY₁から脱退する権利を行使しても、Y₂社との間で債務不履行が責任等の問題を生ずるにとどまる。

(3)本件付随合意のうち、Y₁から脱退する権利をおよそ行使しないことをXに義務付けて、脱退の効力そのものを生じさせないとする部分は、脱退の自由という重要な権利を奪い、組合の統制への永続的な服従を強いるものであるから公序良俗に反し無効である
 …以上のとおりであるから…Xがチェック・オフの中止を求めることは許されないとすることはできない。

解説・ポイント

 本判決の意義は、組合員には脱退の自由が認められるため、組合からの脱退の自由を制限する合意は公序良俗に反し無効であると判断した点にあります。
 
 また、脱退の自由の自由を制限する合意が組合員及び労働組合との間で成立していたとしても、当該合意に反して組合員が脱退したとしても債務不履行責任が生じるに過ぎず、やはり脱退の自由を制限することはできないと判断した点が注目されます。

 要するに、本判決は、組合員に脱退の自由を認めることにより、実質的に組合選択の自由を保障したものと考えられます。

参考文献

 本稿の執筆に当たり、以下の書籍を参考にさせて頂きました。ありがとうございました。

・最重要判例200 労働法(第5版)大内伸哉 著
・労働判例百選(第10版)村中孝史・荒木尚志 編
・詳解 労働法 水町勇一郎 著