振替加算とは何か

はじめに

 みなさんは「振替加算」という言葉をご存知でしょうか?

 この言葉について詳しいのは、国民年金法や厚生年金法に詳しい社会保険労務士くらいのものかもしれません。
 ですが、振替加算は、ある特定の年代の夫婦にとって、老後に受給できる年金額が増額する重要な制度となっています。本稿では、この振替加算の制度の概要についてご紹介致します。

振替加算とは

夫婦が年金受給権者となった場合の上乗せ年金

 振替加算とは、夫婦が2人とも年金を受給することができるようになった場合に、夫婦の片方が年金を受給できる場合との均衡を保つために、支給される老齢基礎年金に上乗せされる年金のことをいいます。

 これを初めて聞くと「?」とならないでしょうか?
 上記の定義だと、夫婦2人に支給される年金の方が、夫婦のうち1人に支給されていた年金よりも、少額であることが前提となっているからです。
 
 なぜ、夫婦2人が年金受給者となった場合の方が、夫婦のうち1人に年金が支給されていたときよりも、年金額が少額になってしまうのでしょうか?
 (なお、これは、必ず夫婦2人が年金受給権者となった場合の方が少額になる、ということではなく、少額になる可能性があるという趣旨で説明しています)

 それを理解するためには、まず、厚生年金保険法に定めてある「配偶者加給年金額」をザックリでも良いので、概要を理解しておくことが必要となります。

 なぜなら、上記のような不均衡が生じるのは、夫婦の一方が年金を受給する場合に、配偶者加給年金が加算されていることが前提となっているからです。
 つまり、次のような不等式が成り立つ可能性があるということです。

 老齢基礎年金額+老齢厚生年金額+配偶者加給年額>老齢基礎年金+老齢厚生年金+老齢基礎年金(右の計算式に「老齢厚生年金」が1つしかないのは、夫婦の一方が会社勤めをし、その配偶者が専業主婦(夫)であることを前提としています)

配偶者加給年金額とは

 配偶者加給年金額(以下「加給年金額」と略します)とは、老齢厚生年金の受給権者が、その権利を取得した当時(通常65歳です)、次のいずれかの者の生計を維持していた場合に、老齢厚生年金の額に加算されるものです。

1.65歳未満の配偶者
2.18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある子又は20歳未満であって障害等級1級又は2級に該当する状態にある

 なお、加給年金額が加算されるためには、上記の者の生計を維持していることのほかに、厚生年金保険被保険者の被保険者期間が240月以上(10年以上)あることが必要となります(中高齢の期間短縮措置など例外を除きます)。

加給年金額の額

 加給年金額は、次の通り生計維持する者の数により異なります。

1.配偶者・・・224,700円×改定率
2.子2人目まで1人につき・・・224,700円×改定率
3.子3人目以降1人につき・・・74,900円×改定率

 なお、ここでいう改定率とは、毎年度定められる百分率のことをいいます。令和4年度の改定率は0.996となっています。

振替加算の制度趣旨

 加給年金額についてザックリ解説したので、ここでもう一度、なぜ、夫婦2人が年金受給者となった場合の方が、夫婦のうち1人に年金が支給されていたときよりも、年金額が少額になってしまう場合があるのか、について解説していきましょう。

 加給年金額の概要を理解したうえで、振替加算の制度趣旨を理解すると、その答えが明らかとなっていきます。

 厚生年金保険の被保険者の配偶者は、昭和36年4月から昭和63年3月までの間は国民年金の加入は任意とされていました。国民年金の第3号被保険者として強制的に配偶者も国民年金に加入するようになったのは、昭和63年4月1日以後です。

 任意加入の時代にも、国民年金に任意に加入して保険料を毎月納付していれば老齢基礎年金の年金額に反映されますが、任意加入しなかった期間は合算対象期間(年金の支給要件の1つとなる受給資格期間)にしかならず、年金額には反映されません。

 そうすると、任意加入しなかった配偶者は、老齢基礎年金の受給権は取得しても、その額は加給年金額よりも少額となる可能性があります。先に挙げた不等式をもう一度見てみましょう。

老齢基礎年金額+老齢厚生年金額+配偶者加給年額>老齢基礎年金+老齢厚生年金+※老齢基礎年金(※任意加入せず年金額に反映されない老齢基礎年金)

 つまり、任意加入しない場合、年金額には反映されないため、加給年金額の224,700円×改定率よりも年金額が下回ることがあるといえます。

 このように、振替加算は、加給年金額が加算された老齢基礎年金の受給権者との均衡を図るために、加給年金額が支給されていた時よりも、夫婦2人が老齢基礎年金を受給した場合の年金額の方が少額となる場合に支給される年金となっているのです。

まとめ

 本稿では、振替加算の意義とその制度趣旨について解説致しました。
 
 振替加算とは、要するに、国民年金の第3号被保険者が任意加入であった頃、任意加入せず、年金額を納めていなかった場合に、老齢基礎年金を受給できる年齢となっても、実質何も受給できない配偶者を持つ夫婦を救済するために、加給年金額が支給されていた時よりもやや減額して支給される上乗せ年金額と理解しておくと良いでしょう。