神戸弘陵学園事件 最高裁平成2年6月5日第三小法廷判決(有期契約と試用期間)

事案の概要

(1)Xは、学校法人Yにおいて社会科教員として採用されました。

(2)採用に際して、Xは、Y理事長から採用後の身分は常勤講師として、契約期間は一応1年とすること、および1年間の勤務状態を見て再雇用するか否かの判定をすることについて説明を受けるとともに、口頭で採用の申し出を受け、受諾しました。

(3)XはYから求められるままに「Xが1年の期限付きの常勤講師としてYに採用される旨の合意が成立したこと及び右期限が満了したときは解雇予告その他何らの通知を要せず期間満了の日に当然退職の効果が生ずること」などが記載された「期限付職員契約書」に自ら署名捺印しました。

(4)Yは、採用から1年後、Xの労働契約は期間満了により終了する旨の通知を行ったので、Xが教諭の地位の確認と解雇通知後の賃金の支払いを求めて提訴しました。

第一審は本件契約は期間満了により終了したものと判断し、原審もXの控訴を棄却

判旨・判旨の要約

破棄差戻し

(1)使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用契約に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、右期間の満了により右雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、右期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当である。

(2)試用期間付雇用契約の法的性質については…これを解約権留保付雇用契約であると解するのが相当である。
 そして、解約権留保付雇用契約における解約権の行使は、解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認される場合に許されるものであって、通常の雇用契約における雇用の場合よりもより広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきであるが、試用期間付雇用契約が試用期間の満了により終了するためには、本採用の拒否すなわち留保解約権の行使が許される場合でなければならないわけではない。

(3)本件では、Xが1年後の雇用の継続を期待することはもっともな事情があったこと等から、X・Y間に1年の期間満了により雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が成立しているなどの「特段の事情」が認められるかについてはなお疑問が残るとして原判決を破棄・差し戻しました。

解説・ポイント

 本判決の意義は、有期雇用契約において当該期間を設けた趣旨・目的が労働者の適性を判断するためのものと言える場合には、特段の事情がない限り、当該期間は試用期間にあたると判断した点にあります。

 試用期間付雇用契約の法的性質は、解約権留保付雇用契約であるため、無期雇用契約社員の解雇よりも使用者の解雇権の行使に広い裁量が認められるものの、解雇権濫用法理に抵触する場合には無効になると判断した点も重要なポイントです。

参考文献

 本稿の執筆に当たり、以下の書籍を参考にさせて頂きました。ありがとうございました。

・最重要判例200 労働法(第5版)大内伸哉 著
・労働判例百選(第10版)村中孝史・荒木尚志 編
・詳解 労働法 水町勇一郎 著