パナソニック・プラズマディスプレイ事件 最高裁平成21年12月18日第二小法廷判決(労働者派遣と偽装請負) 

事案の概要

(1)家庭用電気機械器具の製造業務の請負等を目的とするA社(訴外)は、プラズマディスプレイパネル(PDP)の製造を業とするY社との間で業務委託基本契約を結んでいました。
 Xは平成16年1月20日にA社と契約期間2か月(更新あり)、就業場所をY社のI工場とする労働契約を締結し、同日からI工場で、Y社の従業員の指示を受けてデバイス部門の装着工程に従事することとなりました。

(2)Xは、平成17年4月27日、Y社での就労実態が労働者派遣法等に違反しているとして、Y社に直接雇用の申入れをしましたが、回答を得られなかったので、B労働組合に加入して、B労働組合からY社に対して、Xに直接雇用申込みを行うよう団体交渉を申し入れました。

(3)平成17年5月26日、Xは、Y社での勤務実態は請負ではなく、労働者派遣であるとO労働局に告発し、Y社が是正指導を受けたため、Y社はデバイス部門における請負契約を労働者派遣契約に切り替える計画を策定し、これに伴いA社は、同年7月20日限りでデバイス部門から撤退しました。
 Y社はA社以外の会社と労働者派遣契約を締結し、PDPの製造業務を続けました。
 Xは、A社からI工場の別部門への異動を打診されましたが、Y社の直接雇用下でデバイス部門の作業を続けたいと考え、同年7月20日にAを退職しました。

(4)Y社とB労働組合・Xとの間で行われたXの直接雇用をめぐる協議の結果、Xの雇用契約の条件として契約期間は平成18年1月31日まで、業務内容はPDP製造と記載した労働条件通知書をX側に交付し、Xはその内容に沿った雇用契約書に署名押印して平成17年8月19日にY社に交付しました。
 その後、Y社は、平成18年1月末日をもって期間満了によりXとの雇用契約が終了したとして、それ以降のXの就業を拒絶しました。

(5)Xは、A社を退職する以前からY社との間で黙示の労働契約が成立していた等と主張し、雇用関係継続確認等を請求しました。

第一審:請求棄却、第二審:請求認容

判旨・判旨の要約

原判決を一部破棄、自判

(1)請負人における労働者に対する指揮命令がなく、注文者がその場屋内において労働者に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせている場合には、たとい請負人と注文者との間において請負契約という法形式が採られていたとしても、これを請負契約と評価することはできない。

(2)労働者派遣法の趣旨及びその取締法規としての性質、さらには派遣労働者を保護する必要性等にかんがみれば仮に労働者派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合においても、特段の事情のない限り、そのことだけによっては派遣労働者と派遣元との雇用契約が無効になることはないと解すべきである。
 XとA社との間の雇用契約を無効と解すべき特段の事情はうかがわれないから、両者間の雇用契約は有効に存在していたものと解すべきである。

(3)Y社はA社によるXの採用に関与していたとは認められないというのであり、XがA社から支給を受けていた給与等の額をY社が事実上決定していたといえるような事情もうかがわれず…Y社とXとの間において雇用契約関係が黙示的に成立していたものと評価することはできない

解説・ポイント

 本判決の意義は、1つは、労働者派遣法に違反する労働者派遣が行われたからといって、直ちに派遣労働者と派遣元との間の雇用契約が無効にはならないと判断した点にあります。
 もう1つは、派遣労働者と派遣先との間で黙示の労働契約が成立しているといえるためには、派遣労働者の給与など重要な労働条件について事実上派遣元が決定していたといえるような事情が必要となると判断した点にあります。

参考文献

 本稿の執筆に当たり、以下の書籍を参考にさせて頂きました。ありがとうございました。

・最重要判例200 労働法(第5版)大内伸哉 著
・労働判例百選(第10版)村中孝史・荒木尚志 編
・詳解 労働法 水町勇一郎 著