あけぼのタクシー事件 最高裁昭和62年4月2日第一小法廷判決(解雇期間中の賃金と中間収入)

事案の概要

(1)Xらは、旅客運送事業を営むY社のタクシー乗務員として勤務し、A組合に加入していました。
 Xらは、昭和51年8月21日に懲戒解雇され、労働契約存在確認及び未払賃金の支払いを求めて提訴しました。

(2)第一審判決は、本件解雇は不当労働行為であり無効であるとしました。
 解雇無効の判断は、控訴審判決でも、最高裁判決でも維持されました。そのため、Y社は、昭和53年3月14日、同人らを復職させました。

(3)Xらの未払い賃金請求につき、第一審判決は、Xらの解雇から上記復職日までの不就労は無効な解雇によるものであったとして認容しました。
 他方、昭和51年9月1日から昭和53年2月10日までの期間は、XらがB社でタクシー運転手として勤務して賃金を支払われていた(中間収入)ことから、中間収入は未払い賃金から控除されるべきであるとしつつ・・・労基法26条により平均賃金の6割は本件解雇期間中の賃金として支払われるべきであるとしました。

(4)上記(3)に基づく計算は、Xらについては次の通りとされました。
 (ⅰ)Xらの解雇前3か月の1か月当たりの平均賃金額を算出する。(ⅱ)本件解雇期間を、①解雇以降、他会社での就労前までの期間、②他会社で就労していた期間、③他会社を退職し、Y社に復職するまでの期間に分けた上で、②の期間は17か月分として、①③の期間は日割りで、上記(ⅰ)の平均賃金を基礎として本件解雇期間中の賃金額を算出する。(ⅲ)②の期間にXらはB会社から中間収入を得ていたが、その月額はY社での平均賃金を上回っており、Y社での平均賃金の4割のみが控除され、その6割は支払わなければならない。また、他会社で就労していなかった①③の期間の賃金額は全額が支払われるべきこととなる。(ⅳ)XらはY社に対して本件解雇期間中の夏期・冬期一時金も請求できる。もっとも、上記(ⅲ)において控除されなかった中間収入額は、一時金の合計額を上回っていることから、中間収入の控除により、Xらの一時金請求は理由がない。

(5)これに対して、控訴審判決は、平均賃金の計算の基礎とならない一時金は、控除の対象にならないとして、本件解雇期間中の一時金請求を認容しました。

判旨・判旨の要約

一部破棄差戻し、一部上告棄却

(1)使用者の責めに帰すべき事由によって解雇された労働者が解雇期間中に他の職に就いて利益を得たときは、使用者は、右労働者に解雇期間中の賃金を支払うに当たり右利益(以下「中間利益」という。)の額を賃金額から控除することができるが、右賃金額のうち労働基準法12条1項所定の平均賃金の6割に達するまでの部分については利益控除の対象とすることは禁止されているものと解するのが相当である。
 
 したがって、使用者が労働者に対して有する解雇期間中の賃金支払債務のうち平均賃金の6割を超える部分から当該賃金の支給対象期間と時期的に対応する期間内に得た中間利益の額を控除することは許されるものと解すべきであり、右利益の額が平均賃金の4割を超える場合には、更に平均賃金算定の基礎に算入されない賃金(労基法12条4項所定の賃金)の全額を対象として利益額を控除することが許されるものと解せられる。

(2)賃金から控除し得る中間利益は、その利益の発生した期間が右賃金の支給の対象期間と時期的に対応するものであることを要し、ある期間を対象として支給される賃金からそれとは時期的に異なる期間内に得た利益を控除することは許されないものと解すべきである。

(3)原判決中Xらの本件一時金請求を認容した部分は破棄を免れない。各一時金につき、Xらがそれぞれその支給対象期間に対応する期間内に得た利益の額を控除してなお残額が存在するかどうか更に審理を尽くさせる必要があるから、これを原審に差し戻す。

解説・ポイント

 本判決の意義は、無効な解雇期間内に他で就業して得た中間利益について控除する額及びその控除の対象となる期間について判断した点にあります。
 具体的には、無効な解雇期間中、他で就業して中間利益を得たとしても、平均賃金の6割は保障され、この6割を超える金額から中間利益が控除されると判断した点です。
 
 たとえば、平均賃金30万円で中間利益20万円の場合、中間利益があっても30万円の6割である18万円は支払われ、残額12万円については、中間利益の20万円があるから12万円を超えるため、支払われないということになります。任意に使用者が支払う場合は別ですが。
 また、平均賃金30万円で中間利益が10万円の場合、30万円の6割である18万円は支払われ、残額12万円については、中間利益の10万円を控除した2万円が支払われる必要があるということになります。

参考文献

 本稿の執筆に当たり、以下の書籍を参考にさせて頂きました。ありがとうございました。

・最重要判例200 労働法(第5版)大内伸哉 著
・労働判例百選(第10版)村中孝史・荒木尚志 編
・詳解 労働法 水町勇一郎 著