カール・ツァイス事件 東京地裁平成元年9月22日判決(誠実交渉義務)

事案の概要

(1)X社は、顕微鏡等の光学機器を製造する、国際的に著名なメーカーでした。
 Z₁を上部団体とするZ₂労働組合(以下「Zら」)は、もともと労働組合が存在しなかったXにおいて、Xの従業員150名を組織し、労働組合結成をX社に通知しました。

(2) Zらは、結成通知と共に、Xに対してユニオンショップ協定の締結やチェック・オフの実施、組合事務所貸与など(以下「基本要求」)の便宜供与を要求しました。
 X社とZらにおける団体交渉の結果、基本要求については継続審議となりました。

(3) 春闘において、Zらは基本要求を要求しませんでした。そして、賃上げ等の労働条件のみが交渉事項となり、交渉が妥結しました。
 結果として協定書(以下「5・16協定」)が締結され、この協定書には「その他の要求事項については現行通りとする」との記載がありました。

(4) Z₂は基本要求の一部について団交を申し入れましたが、X社は5・16協定にて解決済みだとして団交を拒否しました。さらに、Z₂は組合役員についての人事異動についても団交を求めましたが、これもX社は拒否しました。

(5) Zらは、本件団交拒否が不当労働行為に該当するとして団交応諾を求めて労働委員会Yに救済を申し立てたところ、Yは救済命令を発しました。

判旨・判旨の概要

請求棄却

(1) 使用者は、自己の主張を相手方が理解し納得することを目指して、誠意をもって団体交渉に当たらなければならず労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示するなどし、また、結局において労働組合の要求に対し譲歩できないとしても、論拠を示して反論するなどの努力をすべき義務がある

(2) X社は、基本要求について、5・16協定によって解決済みであるとの態度に終始し具体的な検討を行わなかった。
 X社は人事異動についても、人事異動は会社の権利であり組合から何も言われる筋合いはないと答えるのみであった。
 したがって、X社には、Zらの要求等を真摯に検討し、応じない理由・根拠を十分説明し、組合を説得しようとの態度がなかったと言わざるを得ない。

(3)以上より、本件団交拒否は不当労働行為である。

解説・ポイント

 労組法7条2号では、使用者が正当な理由なく団体交渉を拒むことを不当労働行為として定めていますが、本判例で問題となった団体交渉の場での使用者の誠実交渉義務についてまで規定されている訳ではありません。
 
 ですが、本判例では、労働組合の団体交渉権の実効性を担保するために、使用者に誠実交渉義務を認めました。具体的には、組合の要求・主張に対する回答やその根拠、反対する場合にはその根拠を示すなど努力義務があると判示しました。

 このように、本判決の意義は、明文にない誠実交渉義務を認め、労働組合の団体交渉権の実効性を担保した点にあるものと考えられます。

参考文献

 本稿の執筆に当たり、以下の書籍を参考にさせて頂きました。ありがとうございました。

・最重要判例200 労働法(第5版)大内伸哉 著
・労働判例百選(第10版)村中孝史・荒木尚志 編