事案の概要
(1) 民間定期航空運輸事業を営むY社は、東京、大阪、沖縄に営業所を有していました。
Y社は東京の一部業務において訴外A社の従業員と自社の従業員を混用して業務に従事させていましたが、訴外B組合はこれを職業安定法違反であると主張しました。
そこでY社は、従来貨物課と搭載課に配置されていたA社の従業員を両課から除外する等して改善案を発表しました。しかし、B組合はこれを承服せず、上記改善案の撤回を目指し、東京営業所においてストライキを決行しました。その際B組合は羽田空港内のY社の業務用機材70台をハンガー(格納家屋)に持ち去りこれを占拠しました。
(2) これにより、Y社は貨物便の全面運航中止と旅客便の減便・路線変更を余儀なくされました。
Y社は一部必要人員を除く沖縄営業所及び大阪営業所の全従業員に対し休業を命じました。休業命令はスト解除まで続きました。
(3) B組合員でありY社の沖縄営業所又は大阪営業所に勤務するXらは、上記休業期間中に賃金が支払われなかったとして、Y社に対し未払賃金及び予備的に休業手当の請求を行いました。
第一審:すべて請求棄却、控訴審:休業手当のみ請求認容
判旨・判旨の概要
賃金請求:上告棄却
企業ないし事業場の労働者の一部によるストライキが原因で、ストライキに参加しなかった労働者が労働をすることが社会通念上不能又は無価値となり、その労働義務を履行することができなくなった場合、不参加労働者が賃金請求権を有するか否かについては、当該労働者が就労の意思を有する以上、その個別の労働契約上の危険負担の問題として考察すべきである。
団体交渉において…どの程度譲歩するかは使用者の自由であるから…労働者の一部によるストライキが原因でストライキ不参加労働者の労働義務が不履行となった場合は、使用者が不当労働行為の意思その他不当な目的をもってことさらストライキを行わしめたなどの特別の事情がない限り、右ストライキは民法536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」には当たらず、当該不参加労働者は賃金請求権を失う。
休業手当請求:破棄自判
労働基準法26条の「使用者の責めに帰すべき事由」…とは、取引における一般原則たる過失責任主義とは異なる観点をも踏まえた概念というべきであって、民法536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」よりも広く、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含む。
ストの結果Y社が命じた休業はY社側に起因する経営、管理上の障害によるものではなく…Y社の帰責事由によるものともいえない。
よって、休業手当も請求できない。
解説・ポイント
本判決の意義
本判決の意義は、ストライキ不参加者に対する賃金の支払請求について、団体交渉についてどの程度譲歩するかは使用者に裁量があることから、不当な目的でストライキを行させたなどの特段の事情がない限り、ストライキ不参加者の労働の提供を受けなかったとしても、民法536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」に当たらず、当該請求を否定した点にあります。
また、休業手当についても、労基法26条の「使用者の責めに帰すべき事由」は、民法536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」を含むとして同様の構成により否定しています。
参考文献
本稿の執筆に当たり、以下の書籍を参考にさせて頂きました。ありがとうございました。
・最重要判例200 労働法(第5版)大内伸哉 著
・労働判例百選(第10版)村中孝史・荒木尚志 編
・詳解 労働法 水町勇一郎 著