第二鳩タクシー事件 最高裁昭和52年2月23日大法廷判決(バックペイと中間収入)

事案の概要

(1)X社は、ハイヤー・タクシー業を営む株式会社であり、Aらはいずれも自動車運転手としてX社に雇われ勤務していました。AらはB労働組合に加入したところ、X社はAらを解雇しました。

(2) 解雇後、Aらは、継続的又は断続的に、他のタクシー会社に運転手として雇われ賃金収入を得ていました

(3) Aらは、B労働組合とともに、X社を被申立人としてY労働委員会に対し、救済の申立てをしました。Yは、Aらを原職に復帰させ、解雇された日から原職に復帰するまでの間に受けるはずであった賃金相当額を支払わなければならない旨をX社に命じました。

(4) X社は、Aらが原職に復帰するまで他の会社から賃金を得ていたにもかかわらず、これを控除せずに命令を下されたことから、Yの命令の取消を求めて提訴しました。

第一審:請求認容、控訴審:控訴棄却(つまり下級審ではX社の請求が認容されたということです。)

判旨・判旨の概要

上告棄却

(1) 労働組合法27条…は、労働者の団結権及び団体行動権の保護を目的とし…労働組合法7条の規定の実効性を担保するために設けられたものであるところ…労働委員会に対し、その裁量により、個々の事案に応じた適切な是正措置を決定し、これを命ずる権限をゆだねる趣旨に出たものと解される。

(2) 救済命令の内容は、被解雇者に対する侵害に基づく個人的被害を救済するという観点からだけではなく、あわせて、組合活動一般に対する侵害の面をも考慮し、このような侵害状態を除去、是正して法の所期する正常な集団的労使関係秩序を回復、確保するという観点からも、具体的に決定されなければならないのである。

 不当労働行為としての解雇に対する救済命令においては、通例、被解雇者の原職復帰とバックペイ(無効な解雇期間中の賃金の支払い)が命ぜられるのであるが、このような命令は…必要な措置として労働委員会が適法に発し得るところといわなければならない。

(3) 他に就職して収入を得た場合には、それが従前の就労からの解放によって可能となった労働力の使用の対価であると認められる限り、解雇による経済上の不利益はその限度において償われたものと考えられ、バックペイとしてその既に償われた部分までの支払いを命ずることは…実害の回復以上のものを使用者に要求するものとして救済の範囲を逸脱するものと解される。

(4) 組合活動一般に対する侵害の除去という観点から中間収入控除の要否及びその金額を決定するに当たっては…組合活動一般について生じた侵害の程度に応じ合理的に必要かつ適切と認められる救済措置を定めなければならないのである。

解説・ポイント

 不当労働行為に対して、労働委員会はいかなる救済を行うか広い裁量が認められています。本判決まで、一般的に、不当労働行として行われた無効な解雇処分に対する救済手段として、原職処分と全額バックペイ(無効な解雇期間中の賃金の全額支払い)を命じていましたが、本判決は、無効な解雇期間中の中間収入を一切控除しない命令は裁量権の範囲を逸脱したものだと判断しました。

 なお、その後の「あけぼのタクシー事件(昭62.4.2最判)」では、中間収入の控除について、平均賃金の6割に達するまでの部分を控除することはできない、と判断しています。

参考文献

 本稿の執筆に当たり、以下の書籍を参考にさせて頂きました。ありがとうございました。

・最重要判例200 労働法(第5版)大内伸哉 著
・労働判例百選(第10版)村中孝史・荒木尚志 編