東洋酸素事件 東京高裁昭和54年10月29日判決(整理解雇)

事案の概要

(1)Y社は、酸素、窒素等の製造販売その他の付帯事業の経営を目的とする株式会社であり、東京本店のほか近隣各市に複数の出張所、工場を有していました。
 Xらは、Y社の川崎工場のアセチレンガス製造部門に勤務しており、訴外A組合の組合員でした。

(2)Y社は、アセチレン部門の収支が赤字に転落するなど経営が悪化したため、取締役会で、川崎工場のアセチレン部門の閉鎖を決定、A組合に同決定の趣旨を通知し、就業規則「やむを得ない事業の都合によるとき」に基づき同部門の従業員Xら全員に対し解雇通告をし同部門を閉鎖しました。

(3)Xらは、解雇の効力を争い、地位保全等の仮処分を申請しました。

第一審:Y社の解雇回避措置は不十分であるとして解雇無効

判旨・判旨の要約

原判決取り消し、Xらの申請却下

(1)解雇は、労働者から生活の手段を奪い、あるいはその意思に反してこれまでより不利な労働条件による他企業への転職を余儀なくさせることがあるばかりでなく、その者の人生計画を狂わせる場合すら少なくないので労働者を保護するために解雇の自由も一定の制約を受ける。

(2)本件解雇が、就業規則にいう「やむを得ない事業の都合によるとき」ものに該当するか否かは、客観的に合理的な理由があるか否かに帰するが、
第1に、右事業部門を閉鎖することが企業の合理的運営上やむを得ない必要に基づくものであること、
第2に、右事業部門に勤務する従業員を同一又は遠隔でない他の事業場における他の事業部門の同一又は類似職種に充当する余地がない場合、あるいは右配置転換を行ってもなお全企業的に見て剰員の発生が避けられない場合であって、解雇が特定事業部門の閉鎖を理由に恣意によってなされるものでないこと、
第3に、具体的な解雇対象者の選定が客観的、合理的な基準に基づくものであること、
以上の3個の要件を充足することを要し、特段の事情がない限り、それをもって足りる。

(3)解雇につき、労働組合の同意を得ず又はこれと協議を尽くさなかったとき、あるいは解雇がその手続上信義則に反し、解雇権の濫用にわたると認められるとき等は、解雇の効力は否定されるが、これらは、解雇の効力の発生を否定する事由であって、その事由の有無は、解雇事由の有無の判断に当たり考慮すべき要素とはならない。

(4)アセチレン部門の業績不振は一時的なものではなく、同部門の収支の改善はほとんど期待することができず、これを放置すれば、会社経営に深刻な影響を及ぼすおそれがあったので、同部門の閉鎖は企業の運営上やむを得ない必要があり、かつ合理的な措置であった。
 また、同部門の従業員を配置転換するとすれば、現業職及びこれと類似の職種である特務職に限られるが、他部門において当時いずれについても過員であり欠員が生じる見込みもなかった。
 さらに、他部門とは独立した事業部門であるアセチレン部門の廃止により企業全体の過員が一層増加したので、同部門の管理職以外の従業員47名全員を解雇対象者に選定したことは、一定の客観的基準に基づく選定であり、その基準も合理性を欠くものではない。

(5)以上より、本件解雇は就業規則にいう「やむを得ない事業の都合による」ものといえる。

解説・ポイント

 本判決の意義は、解雇は労働者の生活に重大な不利益を与えることから、使用者による解雇の自由は一定の制約があるとし、整理解雇が解雇権の濫用とならず適法といえるためには、①人身削減の必要性、②解雇回避努力義務を尽くしたこと、③解雇対象者選定の合理性の3つの要件を充足することが必要と判断した点にあります。

 なお、実務上は、上記3要件のほか、解雇手続の相当性も加えた4要件若しくは4要素により判断すると考えられています。 

参考文献

 本稿の執筆に当たり、以下の書籍を参考にさせて頂きました。ありがとうございました。

・最重要判例200 労働法(第5版)大内伸哉 著
・労働判例百選(第10版)村中孝史・荒木尚志 編
・詳解 労働法 水町勇一郎 著