事案の概要
(1) Z組合及び組合員Aらは、X会社がZ組合の組合員Aら9名に対し、組合活動を理由として他の従業員と仕事上及び賃金上の差別的取り扱いをしたのは不当労働行為であるとして、千葉地労委に対し救済申し立てを行いました。
千葉地労委は、(当該差別的取扱いが)不当労働行為に当たるとして差額賃金の支払等を命じました。
(2) X社及びZ組合・Aら双方が中央労働委員会Yに再審査申立てをしましたが、Yは地労委の救済命令を一部変更して、X会社に対し、等級格差の是正等を命じました。
(3) X会社はYの本件命令の取消訴訟を求めて東京地裁に提起しました。
第一審:一部請求認容、一部取消し
判旨・判旨の概要
原判決中X会社の請求認容部分の一部取消し
(1) 労働組合員の組合員と組合員以外の者との間に人事考課に基づく等級格差、昇給及び賞与の格差が生じている場合には…不利益取扱いを(受けていると)主張する者は、当該組合員に対する低査定の事実のほかに、当該組合員が組合員以外の者と能力、勤務実績において同等であることを主張し、立証することを要する。
(2) 人事考課が能力主義的に行われている場合には…当該組合員が、自己の把握し得る限りにおいて具体的根拠を挙げて組合員以外の者と能力、勤務実績において劣らないことを立証すれば、当該組合員が組合員以外の者と能力、勤務実績において同等であると推認することも許される。
(3) 使用者が当該労働組合の存在や当該組合員の組合活動を嫌悪していたこと、当該不利益取扱いが労働組合の組織や活動に打撃を与えていることが立証できれば…当該不利益取扱いをしようとしたとの使用者の意欲を推認することができる。
(4) 本件では、不当労働行為を主張する側が「当該組合員が組合員以外の者と能力、勤務実績において同等であること」を立証する責任がある。
(5) X会社の…本件A組合員らに対する評価は差別的取扱いに基づくものであって合理的理由を欠くものと判断する。
解説・ポイント
本判決の意義は、組合員が等級、昇給及び賞与等人事考課について組合員以外の労働者との間で差別的取扱いがされていると主張する場合に不利益取扱いを受けた側の立証責任を緩和した点にあります。
具体的には、従業員の能力や勤務実績などを基礎付ける証拠資料は使用者がその多くを管理、保有していることから、差別的取扱いを受けたと主張する者は、自己の把握し得る限りで組合員以外の者と能力や勤務実績等において劣らないことを立証すれば足りると判断した点にあります。
なお、本判決では、この立証が行われた場合、使用者はそのような差別的取扱いをしたことに対して合理的理由を個別に反証することが必要となるとも判示しています。
参考文献
本稿の執筆に当たり、以下の書籍を参考にさせて頂きました。ありがとうございました。
・最重要判例200 労働法(第5版)大内伸哉 著
・労働判例百選(第10版)村中孝史・荒木尚志 編